「うわあああ」何度も悲鳴を上げ…「不発弾」だけではない硫黄島の「意外な危険なもの」
危険な生き物との遭遇
遺骨収集団は高齢者が主体なのだから、危険な作業はないはずだ。硫黄島上陸前のそんな先入観を打ち消したのは、続々と出土した不発弾だけではない。大きなムカデと遭遇し「うわあああ」と悲鳴を上げたことは1回や2回ではなかった。通算したら数十回に上るかもしれない。 僕は、クモは怖くない。人間に危害を与えないからだ。しかし、硫黄島のムカデは違う。人間に咬みつき、激痛を与えるとされる。遺骨収集団が作業現場で長袖長ズボンの作業服の着用を求められるのは、ムカデ対策のためだと聞いた。 捜索現場で作業していると、たいてい一度は遭遇した。ムカデはつがいの場合が多いと聞いた。1匹出てきたということは、もう1匹近くにいるということだ。だから、1匹出てきたら、その後は緊張が続いた。 あるとき僕が土を掘っていると、後ろにいた団員が「あ! 酒井さん! ムカデが背中に!」と叫んだ。僕はパニック状態になり、上着を脱ぎ捨てた。服の中に入ったのか、それとも僕が驚いて跳ね上がったときに地面に落ちたのか。ムカデは見つからない。 「大きかったですか」と聞くと「いや小さい」と言われ、僕は「なんだあ」と落ち着いて再び上着を着た。硫黄島には大小のムカデがいる。見た目の気持ち悪さはどちらも一緒だが、小さいムカデはもはや見慣れていた。本土では見たこともない大きなゴキブリにも慣れた。 不発弾と同様、非日常的な体験はやがて日常になる。感覚はまひする。午前と午後のほぼ定刻に飛来した爆撃機を、硫黄島守備隊の兵士たちは「定期便」と呼んでいたという。殺されかねない空襲をそのように呼称した兵士たちも同じように危機感が薄れていったのだろうか。 つづく「「頭がそっくりない遺体が多い島なんだよ」…硫黄島に初上陸して目撃した「首なし兵士」の衝撃」では、硫黄島上陸翌日に始まった遺骨収集を衝撃レポートする。
酒井 聡平(北海道新聞記者)