農業と半導体工場 共存なるか 農地や人手確保に懸念 熊本
【くまもと】半導体受託生産の最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場(菊陽町)の開所式が24日、同工場で開かれる。半導体企業の集積も見込まれ、膨大な経済効果から地元では「100年に1回のチャンス」との声もある。一方、周辺では工場用地や住宅の需要などから土地の高騰が続き、農地の賃貸契約が解除されるなど、農業への影響も出ている。 「今後も農業を続けていけるか心配だ」 工場のある同町に隣接する大津町。肉用牛約100頭を飼育する樋口慶太さん(35)が懸念を訴える。 飼料高騰が続く中、牧草地の確保は、畜産農家にとって死活問題だ。樋口さんの借用農地のうち、今年になって大津町の2カ所の牧草地(約2ヘクタール)で賃貸契約が解除された。地主によると、いずれも住宅地になるという。 町内の別の畜産農家も、借りていた農地が工場用地になるため賃貸契約が解除される。同様の例は他にもある。
交通渋滞 作業時間に影響
交通渋滞がひどく、農地間の移動にも影響が出る。樋口さんは菊陽町にも牧草地を借りるが、畜舎との移動時間だけでも、混雑する夕方は1時間以上かかる。このため、樋口さんは車の少ない夜間に牧草を運ぶ。「作業時間も夜に合わせてずらしている。夜に牧草地と畜舎を何度も往復することがある」と話す。 変化は他にもある。今まで住宅の少なかった畜舎の周りに、新しい住宅が次々に建てられるようになった。今後、新しい住民との間での臭いなどのトラブルも不安材料だ。
高まる労働需要 人材確保厳しく
周辺地域では人件費が高騰し、労働需要も高まっている。 熊本市で2月に開かれた新規就農セミナーには、就農希望者約50人が参加した。参加者は例年並みで、今のところ数字に現れるような影響は出ていない。だが、農業関係者からは「長期的に十分な農業人材を確保できるか」と心配する声もある。 一方、半導体人材の育成には、国や県が力を入れる。半導体を新たに学ぶ課程が、熊本大学や県立技術短期大学校などに設けられる。