センバツ2022 市和歌山、貫いた全力 /和歌山
センバツでベスト8に進出した市和歌山は28日、準々決勝で昨秋の近畿大会を制した大阪桐蔭と対戦した。6本塁打を浴びるなどし、0―17で敗れた。地区王者3連続撃破はならなかったが、ベンチ入りメンバー中17人が出場し、チーム一丸となって難敵に立ち向かった。最後まで諦めない姿に、アルプススタンドからは温かい拍手が送られていた。【橋本陵汰、山口智、中田博維】 相手の強力打線に苦しめられ、放った安打もわずかに1。しかし、随所にファインプレーが出て、公式戦初出場の選手も活躍し、チームは最後まで全力で戦い抜いた。 1、2回戦を完投した米田に代わり、先発マウンドに立ったのは「絶対抑えてやろう」と気合の入った淵本だった。初回、2四球を与えピンチを招き、いきなり2点を失うも後続を断ち、二回には熊本のファインプレーも出てチームは盛り上がった。その裏の攻撃では、森が「バットを短く持って食らいついていこうと思っていた」と左前へチーム初、そして結果唯一となる安打を放った。 変化球の制球が定まり三、四回は無失点で切り抜けた淵本。冬場に鍛え上げた成果を十二分に発揮したかに見えたが五回、ついに相手打線が牙をむいた。この回先頭打者に本塁打を浴びると、その後も走者を出して、再度の本塁打。マウンドを降りた。前日に「楽しんで投げて」と伝えたという母智子さん(46)は「大分緊張していたのだと思う」といたわった。 流れを断つべく、マウンドに上がったのは前日に141球の熱投を繰り広げたエース・米田だった。いきなり三塁打を打たれたものの、次打者を三振に切って取った。 しかし六回、相手の猛打に遭い、3本塁打を浴びた。後を継いだ宮本も六回は切り抜けたが、七回につかまった。ただ、選手たちは諦めない。2死一、二塁で左前に落ちそうな打球を森がダイビングキャッチして追加点を許さず、八回は1死一、二塁のピンチは、次打者の二直を堀畑が素早く二塁へ送り、飛び出した走者をアウトにしてダブルプレーで切り抜けた。 九回のマウンドに立ったのは奥地。公式戦初登板が甲子園となったが、そうとは思えない堂々の投球で、強力打線を3者凡退に切って取り、最後の攻撃で一矢報いるべく流れを作った。 しかし、最後まで1点が遠かった。「全員スイングが鋭く、ホームランが打てる打線だった」と連投を言い訳せず、相手の力量を認めた米田だった。出場経験の少なかった選手たちが昨年の先輩の成績を超え、高みに到達できたからこそ対戦できた相手。最後まで必死に戦い抜いた経験を夏に生かすべく、選手たちは決意を新たにした。 ◇風に負けず応援 ○…市和歌山は攻撃時、応援旗を掲げてグラウンドの選手たちに力を送った。持つのは小野莞都投手(2年)と芝野世脩選手(2年)。立候補した2人が回ごと交代しながら、アルプス最後列で旗をはためかせた。「風で重たく感じる」と口をそろえるが、1回戦から大役を担い続けてきた。小野投手は「メンバーが頑張っているので、力になれるように」と話し、芝野選手は「粘り強く泥臭く、1勝をつかんでほしい」とエールを送っていた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇夏へ向け再スタート 松村祥吾主将(3年) センバツ出場決定後の2月上旬、主将の重圧に耐えきれず「もう(野球を)やめるわ」とチームメートに漏らしたことがあった。 土曜日、本来は朝から夕方までの練習だったが、午前中で打ち切りに。実戦形式の守備練習で、皆のミスが重なった。「いくらやっても一緒」と半田真一監督から言われた。「自分がチームを引っ張っていいのかな、と感情がおかしくなった」 前主将の松川虎生捕手(ロッテ)、絶対的エースの小園健太投手(DeNA)らの前チームから、レギュラーメンバーがごろっと変わった。経験不足の選手たち。「甲子園に出られず、悔しい思いをした方が成長できるんじゃないか」。指導者からはそんな発破のかけられ方もしていた。 しかし、重圧に屈することはなかった。副主将の米田らと話し合い、「(午前)6時から練習をやろう」とチームメートとやり取りした。翌朝、日の出前の薄暗い中から前日できなかった守備練習などをこなした。 コミュニケーションを密にし、練習でミスが出れば、自分たちでペナルティーを科すなどしてきた自律の姿勢で、チームをベスト8に導いた。何より聖地で熱戦を繰り広げ、チームの成長に確かな手応えを得た。しかし、大阪桐蔭には完敗だった。「隙を突かれるプレーが目立った。夏には守備、走塁、全てにおいて成長できるようやっていきたい」と夏に向けて再スタートする。【橋本陵汰】