「学問」としてのゴルフ。往年の名プレーヤーのハウツー本から現代のデータ活用インストラクションまで考えた【解説「ザ・ゴルフィングマシーン」#102】
「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、欧米のゴルフの学問的発展の歴史について紹介する。
みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて私事ではありますが、このたび11月3~5日の日程で行われる、TPI(タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート)のゴルフレベル3の講習を受講するために、ちょっとアメリカに行ってきます。 講習がどのようなものかは、公開できる範囲でまた後日記事にしたいと思いますが、今回の記事では欧米における学問としてのゴルフがどのように発展して今日に至っているのかを大まかに紹介したいと思います。
上手い人が何をしているのか
大昔で言えば、ゴルフの本というものは、有名なプロがどうやってゴルフをしているのかが、すべててでした。ハリー・バードンやトミー・アーマー、そしてボビー・ジョーンズといった有名プレーヤーのハウツー本は数多く出版されて来ました。 その中でももっとも成功したと言えるのがやはりベン・ホーガンの「モダン・ゴルフ」でしょう。当時の印刷技術では、写真を掲載するとどうしても黒く潰れてしまうため、写実的なイラストをふんだんに用いてホーガンのゴルフ観を紹介したこの本は、いまだに再版されている「傑作」といってよいでしょう。 一方でこうした書籍は、その当人が「うまくいく」と考えている方法を紹介したものであって、万人に当てはまるわけではありません。例えばホーガンが紹介している方法の多くは「フックが強くならないように」するための方法であって、スライスが出やすいアマチュアに向いているものではないという指摘もあります。
科学としてのゴルフ
ではゴルフにおいて本質的に達成していなければならないことは何なのかという、科学的原理にもとづいた主張を最初に行ったのは誰かといえば、私はアーネスト・ジョーンズではないかと考えています。 この人はイングランドのプロゴルファーでしたが、不幸にも第一次大戦従軍中に右足のヒザから下を切断する負傷を負って、以後の人生をアメリカでインストラクターとして過ごしました。とはいえプレーは健在で、松葉杖をついてボールのところまで行き、左脚一本で立ってスウィングして、トーナメントコースをアンダーパーでラウンドする達人でした。 指導者としても初代マスターズ勝者のホートン・スミスをはじめ、男女で14人ものメジャーチャンピオンを育てただけではなく、ハービー・ペニック、ボブ・トスキ、ジム・フリックといった次世代の指導者も育てました。 その主張は非常にシンプルで、「クラブは、クラブヘッドに遠心力をかけることによってスウィングされなければならない」というもので、それができていれば体の動作は、その人に合った方法で最適化されるとしていました。つまりスウィングは人それぞれ異なるものだという考え方です。