テレビからYouTubeへ“戦略的撤退”――。オリエンタルラジオ・中田敦彦の戦い方
「ここ3年間ぐらい、堀江(貴文)さんとかのビジネスの世界に意識的にどっぷり浸かっていて、刺激的で面白かったんですよ。でも、究極のところ、僕はビジネス要素の強い芸人ではあるけれど、ビジネスマンではないと思ったんですね。お金だけで成功を得るというゲームは自分にはきっと続けられない。また違うものを探したいなと思ったんです」 過去の著書で「成功しろ」「俺のようになれ」と力強く煽ってきた中田だが、新刊の『幸福論「しくじり」の哲学』では「強くて優しい人になりたい」と語っている。強さだけでなく優しさも必要だと気付いたきっかけは、自身が運営するオンラインサロン「PROGRESS」でメンバーからの相談に乗っていたことだった。 「サロンメンバーに対して、最初のうちは『がんばれがんばれ、動け動け』って言っていたんです。でも、そう言われても行動できない人の方が多いことに気付いたんですよね。行動できる人は励まさなくても行動するので、むしろ行動できない人の方をケアしないといけないと思ったんです」
炎上は引きずらない
常識にとらわれない中田の行動は、ときに反発を受けることもある。情報番組のコメンテーターとして過激な発言をして叩かれたり、YouTubeで話した内容に間違いがあると批判を受けたこともあった。 「炎上はそんなに引きずらないですね。人間って忘れっぽいから、バズも炎上もすぐ消えるんです。殺されることと逮捕されることはなるべく避けたいですけど、それ以外はそんなに気にしないです」
芸能界は人付き合いや事務所同士の仁義がものをいう世界だ。しかし、中田はベタベタした人間関係ではなく「利」で人とつながろうとする。彼は孤高ではあるが孤独ではない。お笑いを始めるときには藤森慎吾という相方と組み、音楽ユニット『RADIO FISH』ではプロのダンサーともコラボした。YouTubeの活動も多くのスタッフに支えられている。 「自分の能力なんて本当に小さなものだから、みんなを頼りながら進んでいくしかないんです。成功して『win-win』になれば笑っていられる。だから、今は僕に対して批判的な人も、僕とwinになるときが来ると思うんです。あなたにとってwinがある人にきっとなる。そしたら笑って握手ができる」 中田の興味、関心は次々に移り変わっていく。今はグローバルな世界に目が向いている。 「最近の関心事は、海外移住、英語、気候変動ですね。海外移住っていうのは単純に、どこでも仕事をできる態勢を整えたので、リモートワークの最果てを見てみたいんです。英語に関しては、しゃべること自体が好きだし、英語を使って海外の人とコラボすることに可能性を感じています。 気候変動に関しては、いま世界的に見ると、地球に優しい企業やインフルエンサーが大きなマーケットを獲っているんですよ。だから僕も地球環境のことを面白くしゃべれたらいいと思うんですよね。気候変動は地球のラスボス。だからきっと面白いです」 「幸福」は結果ではなく過程にある。壮大な夢と野望を語る芸人界のパーフェクトヒューマンの眼差しは、少年のようにキラキラと輝いている。
中田敦彦(なかたあつひこ) 1982年生まれ。 2003年、慶應義塾大学在学中に藤森慎吾とオリエンタルラジオを結成。04 年にリズムネタ「武勇伝」でM‐1グランプリ準決勝に進出。14年には音楽ユニット「RADIO FISH」を結成し、16年には楽曲「PERFECT HUMAN」がヒット、NHK 紅白歌合戦にも出場。18年にはオンラインサロン「PROGRESS」を開設し、19年からはYouTubeチャンネル「中田敦彦のYouTube大学」の配信をスタートした。主な著書に『幸福論 「しくじり」の哲学』など。