少子化が加速する日本、我々ができることとは? ──東大教授・山口慎太郎が解説
2023年の日本における出生数は、72.7万人。2016年に100万人を初めて割り、過去最低を更新し続けている。そもそも少子化が進むと何が問題なのだろうか。そして、経済不安や仕事と家庭の両立など、出生率低下の要因を解決するために必要なこととは?東京大学経済学部教授の山口慎太郎が日本の課題や希望を解説する。 【写真を見る】深刻化する日本における出生率低下。東京大学経済学部教授の山口慎太郎が、少子化問題を考える上で大切な本をレコメンドしれくれた。
過去最低を更新した出生率。厚生労働省が発表した2023年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.20となり、少子化や人口減少が加速している。そもそも、少子化が進むことで、どんなことが問題になってくるのだろうか?著書『子育て支援の経済学』で知られる東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授は、課題の本質をこう説く。 「急速に少子高齢化が進んでしまうと、少ない現役世代が多くの引退世代を支えていかなければならず、非常に大きな経済的負担を負うことが最大の問題です。もしもゆっくりと人口が減り、現役世代と引退世代の比率が急激に変わらなければ、十分に受け入れられる負担かもしれませんが、今のままでは年金や社会保障の財政がもたないことが危ぶまれるわけです」。さらに、人口規模は経済やイノベーションの促進にも影響を与えると続ける。「例えば、人口が多かろうが少なかろうが、道路や上下水道などのインフラ整備は必要で、人数が多いほうが効率的にできます。さらに、社会にとってプラスとなるイノベーションは、創造性だけでなく偶然も作用するため、現役世代の人数が多い方が起こりやすくなります」
男性の育児参加と出生率の相関関係
子どもを望むか望まないかはそれぞれの選択だが、たとえ望んでいるとしても、経済不安、子育てと仕事の両立への不安、ジェンダーギャップなど複数の障壁を前に、実際には子どもを持たなかったり、第二子以降を持つことを諦めたりする人が増えているのではないだろうか。こうした中、優先順位を高めて取り組んでいけることは、実は身近なところにあるかもしれない。 「日本において改善の余地が大きいのは、男性の家事・育児への参加」と山口は指摘する。「20年前に比べたら人々のジェンダー平等意識は別世界とも言えるほど変わりましたが、今後もこの方向でもっとスピードを上げて変わっていく必要があります。例えば、家事と育児の負担割合を男女で比較すると、2018年の数字では女性は男性の5倍家事育児をやっていることがわかっています。出生率と男性の家事育児負担割合のあいだには正の相関があることが国際的データで示されています。つまり、出生率が高い国々においては、男性の家事育児への参加割合が高い。そして日本のデータでも、男性の家事育児参加割合と、第二子が生まれる割合は正相関しており、因果関係がある可能性は高いと思っています。さらに、子どもを持つ、持たないの判断というのは、夫婦ともに合意していることが大事なのですが、子どもを持たない選択をする夫婦に理由を尋ねたところ、夫は欲しいと考えていても、妻の方が後ろ向きであることが多かったんです。『子どもが増えたら楽しいけれど、その負担は誰が背負うの?』などと、その背後にはやはり負担の不均衡がある。夫婦で均等に分担していくことが、少子化の現状を変えていくプロセスとしても重要だと思います」 山口が言う通り、昔と比べ男性の育児参加に対する意識は高まっている。2023年度の男性の育児休業取得率は過去最高の30.1%に達し、前年度の17.1%から増加した数値は未来へ希望をもたらすニュースであり、政府の奨励策が一定の成果を上げていると言えるだろう。 「2025年4月1日より育児休業給付の給付率が引き上げられ、1カ月間限定で手取りの100%が給付されるようになり、経済的に損をしない状況を作れたことはさらなる前進です」。そして、責任感や義務感だとしても最低1カ月間育休を取り、子どもと向き合うことが未来を大きく左右するとも続ける。 「男性は出産も授乳も経験しないわけなので、何もしなければ子どもとの絆を深めていくオキシトシンというホルモンは分泌されません。ですが、男性も子どもとのスキンシップを通して母親と同じようにオキシトシンが出るため、愛おしさや世話をしたいという気持ちが育まれていきます。入り口さえうまく突破すれば、その後の育児に入ることがそれほど難しくなくなるのかなと思います」