メーキャップで健康寿命が延びる? 高齢者の心にキラキラをもたらす介護美容マジック
「(身なりを整えた自分の姿を見て)生きていてよかったと涙を流し喜んでくれる人もいる。施設に暮らす高齢者にこそ美容は必要だと思う」
平松さんも学んだ介護美容研究所は、介護技術を習得し、高齢者に特化した美容施術を行う「ケアビューティスト」の養成スクール。平成30年の東京校開校を皮切りに全国6カ所で10~70代と幅広い年代の人が学び、卒業生は千人を超える。
同校を運営するミライプロジェクト(東京)の大倉武彦統括部長は「介護の現場で美容は長く見過ごされてきた」と指摘。介護美容の担い手を増やすことで、「施設や入居者に美容を受けるという選択肢を定着させることができた」とし、高齢者の施設を選ぶ際、美容サービスが決め手となるケースも増えているという。
入院や入所をきっかけに身だしなみに気が回らなくなる高齢者は多いが、自らの手で化粧をしたり身だしなみを整えたりすることが、高齢者の健康やQOL(生活の質)の向上の一助となるという調査結果もある。
化粧品大手の資生堂などが平成26~27年、自宅で暮らす高齢者や施設入居者、リハビリ施設通所者など404人に行った調査によると、スキンケアを始める前と後で、自身が健康だと感じる参加者が増加。4段階評価で1段階以上健康だと感じる度合いが改善したと答えた人が全体の22・2%いた。気分が落ち込むなどの抑鬱傾向の改善もみられた。
資生堂ではこの調査に先駆けて25年、「化粧療法プログラム」を開発し、化粧やスキンケアなどを高齢者に伝える美容教室を各地で行ってきた。同社のみらい開発研究所マネジャーの池山和幸さんによると、化粧水で肌を整えるだけでも香りなどが脳への刺激になり、自ら化粧をする動作は筋力維持が期待できるという。
池山さんは「身だしなみを気にしなくなった高齢者が、外出頻度が少なくなり心身が弱っていく悪循環に陥ることは多い」としたうえで、「化粧を続けることが、高齢者の健康寿命の延伸への取り組みの1つであるという意識も広がってきている」と話した。(木ノ下めぐみ)