「責任回避と保身を考えたかも」厚労省OBらが明かす紅麹サプリで死者続出の小林製薬の杜撰な危機管理
日本の危機意識と米国の危機管理の差
国防ジャーナリストとして自衛隊や安全保障の問題を取材していると、常に「危機管理」の問題が出てくる。’07年の海上自衛隊イージス艦の情報漏えい事件時には日米で対照的な「危機管理」が出た。このとき、自衛隊側は漏らした隊員の所属部署や階級などから勝手に推察して、「この情報は漏洩していないだろう、この部分は大丈夫のはずだ」との視点で調査した。ところが米軍はまず「すべての情報が漏洩した」という前提で対応したのである。そして漏洩していない証拠をひとつひとつ集め、漏洩情報を特定していったのである。 この事件は最高裁で執行猶予付きの有罪となったが、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪であった。異変を検知した時に最悪を考えて対処する米軍のリスク管理が正しかったことと同時に、日本の“ユルさ”も浮き彫りになってしまった。 危機が生じた際は、まずは最悪の事態を想定して早急に手を打つのが肝心だ。実際は大したことがなかったとしても「空振りOK」なのである。世の中に広く知らしめる必要がある事案の場合には、覚知したら早急に真摯に発表・報道するのである。最近で言えば、ダイハツの不正から始まったトヨタ関連の不祥事に対して、あまりバッシングされていないのは、即座に広報して問題を最小限に抑えようとしたからだ。その後の対応によっては、逆に企業の好感度が上がることさえある。ピンチはチャンスでもあるのだ。 小林製薬は紅麹サプリメントという自社製品で、未然に防げたはずの死者を含む犠牲者を生じさせてしまった。発表しないことで被害が拡大するという想像力の欠如と、自己の責任回避が引き起こした最悪の危機管理対応なのである。 ◆潰瘍性大腸炎患者がメサラジン誘発間質性腎炎を起こすメカニズム 取材・文:小笠原理恵 国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、フリーライターとして自衛隊や安全保障問題を中心に活動。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。公益財団法人アパ日本再興財団主催・第十五回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞。産経新聞社「新聞に喝!」のコラムを担当
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