「責任回避と保身を考えたかも」厚労省OBらが明かす紅麹サプリで死者続出の小林製薬の杜撰な危機管理
正常化バイアスと危機管理
正常化バイアスについて、分かりやすく例を挙げて説明しよう。 例えば、災害の報道では徐々に犠牲者の数が増えていく。現在確認されている被害者は数名だが、実際は(数百名もしくは、数千名)程度の被害が予測されますと予想数が付け加えられる報道を耳にしたことはない。元旦に発生した痛ましい能登半島地震では、当初から各地の定点カメラの映像が流されていたが、多くの人は「大した事はない」と感じたのではなかったか? 定点カメラの映像には倒壊家屋も津波も映されていなかった。 ところが実際には映像のない場所で甚大な被害が出ていたのである。震度7と言っているのに、こんなはずがないと片隅では考えている。しかし、被害は意外に出ていないなぁと呑気に捉えていたのである。大きな被害が予想できても、「心を平静に保とう」とする動きが「悪い想像をしないように」動いてしまう。 小林製薬には紅麹問題で「これまで多数販売してきたのに、そんなことはなかったのだから」と事実を認めたくない正常化バイアスがあったのだろう。 小林製薬社長も事態を知った後、2ヵ月以上も問題を公表しなかったのはなぜか? 社長はその後に起きることの予測や被害者に対しての責任を正しく認識していなかった。犠牲者を最小限に抑えるというトップとしての判断ができなかったのだ。報告を受けた段階で即座に動かなければ製薬会社の信用は地に落ちる。 「社長を含め、幹部はどう考えたのか。おそらく『発表すれば大騒ぎになるのは間違いない。自社のイメージはダウンする。被害の詳細や原因はなにかを問われる』と責任回避と保身ばかり考えたのではないでしょうか」と前述の元厚労省の医系技官が言う。 もちろん、被害規模は調査をせずに分かるはずもない。詳細を掴んでから、原因分析をしてからの方がよいと小林製薬は判断した体を取っている。問題を追及され、質問されたときに自分たちが返答する準備のためにだろう。 早期に発表した場合に「分かりません」、「調査中です」と言うことに対する多数の質問やバッシングに耐える勇気がなかったのだ。例えば、品質管理部門は「全ロットを検証したい」と主張する。開発研究部門は「原因究明の時間が欲しい」と言う。営業は「取引先に理由を説明するためにデータが必要だ」と言う。全ては責任逃れであるが、発表すれば消費者の不安を煽るという言い訳で自分の良心にウソをつき納得させたのだと考えられる。