『虎に翼』岡田将生の星航一はなぜ魅力的なのか “3つのパート”を絡ませる脚本構成力
航一(岡田将生)と優三(仲野太賀)の異なる魅力
まずは航一を演じる岡田将生の良さである。寡黙なキャラクターのため、画面上に静かに佇み、話を聞いていることが多く、その都度演じる岡田の美しさに改めて驚かされる。『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)の坂間役や、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の慎森役など、様々なはまり役が存在する岡田だが、「言葉少なに語る役柄」がこんなにも見事なのかと、驚かずにはいられない。 続いて、星航一という役柄の魅力は、前述したように、折に触れて、寅子のことを好きだとストレートに伝えることができる人物であるということだ。それは、寅子は「恋愛ごとの機微のようなことに無頓着」と言う涼子の忠告ゆえかもしれないが、事あるごとに「好きです」「嫉妬してしまうくらいには、僕はあなたが好き」と告げる姿は微笑ましい限りである。そしてなにより、第95話の雨の日の告白の場面において、寅子といると「つい蓋が外れてしまう」「人に踏み込んでしまう」ことに対し、「そんな自分が嫌いじゃない」から「あなたと出会えてよかった」と言ったことが、何より素晴らしかった。 なぜなら、人を好きになることで、自分自身が変わり、その自分を肯定せずにはいられないという、理想的な恋愛の形を描いていたからだ。また、2人の恋をアシストする形になったのが、「ずいぶん経ってから、ポロッと本音をこぼして、え、それ今言う?ってなる」癖がある優三らしい、あまりにも遅く発見される手紙の存在で、それもまた対照的で心地よい。 そんな航一に対して、「なんで私の気持ちは、“なりたい私”とどんどんかけ離れていってしまうんでしょうか」と思う寅子は、第100話においてプロポーズされてもなお、困惑を隠せずにいる。そんな彼女の「恋愛ごとの機微のようなことに無頓着」である様は、花江や娘・優未からもさんざん「わかってない」と指摘されるように、笑いとともに描かれる。だが一方で、彼女が1つ1つ引っかかって、踏みとどまって考え込んでくれるから、本作はこれまでにない朝ドラとなり得るのだ。 本来なら恋が成就したというだけで全てが丸く収まり、結婚と、それによって女性が当然のように強いられる様々な厄介ごとの存在そのものがなかったことにされてしまうことが常であるが、1つ1つきちんと「はて?」と問題提起してくれるのが、本作の稀有な点である。第21週はまさにそんな「それぞれにとっての結婚」の意義を、考えさせられる週になりそうだ。
藤原奈緒