「睡眠トレーナーと契約しました」故障ゼロ!藤浪晋太郎のメジャー挑戦を支えたスゴ腕女性
観客、点差、ゲーム差、イニング、ランナーの有無――それらはすべて「ドラマ」。自分の“外の世界”で起こっていること。自分ではどうしようもないこと。FUJI、君が考えるべきことはただひとつ、相手打者を抑える可能性が最も高いピッチングをすること。君の投げるボールの中で最も被打率が低い、ド真ん中高めの真っ直ぐでファーストストライクを取ること。そして、3球でワンボール・ツーストライクのカウントを作ること――。 【画像】も、モデルみたいだ!……大阪のリバーサイドでポーズを決める藤浪晋太郎 開幕当初、防御率10点台と苦しんだ藤浪晋太郎(29)。そこから彼がアスレチックスの勝ち頭となる7勝を挙げるまでにピッチングを改善させた要因が「メンタル」――アメリカ流のシンキング法と、たとえ打ち込まれて逆転されてもベストを尽くせば「グッジョブ!」と褒め称える「失敗に積極的&ポジティブなメジャーの指導法」にあることは、前回インタビューですでに述べた。 その後、話題は「日本人とメジャーリーグ」に移った。イチロー(50)や松坂大輔(43)が海を渡った時代は、口では「歓迎する」「素晴らしい選手だ」と褒め称えつつも、実際はプレイヤーも審判も「日本人風情に何ができる?」と見下していた。ストライク判定を厳しくされるなど、審判のジャッジで嫌がらせをされたりもした。圧倒的に数字を残して黙らせないと、認められなかった。そんなエピソードを紹介すると、藤浪は「もう、そういう時代ではなかったです」と話を引き取った。 「イチローさん、松井秀喜(49)さん、松坂さんがプレーしていた頃のメジャーリーグには、アジア人に対する差別があったのかもしれないですね。自分も渡米前は『ちょっとした差別はあるんだろうな』と覚悟していました。ところが、差別的な発言もなければ、そういった行動や振舞いみたいなものもなかった。先輩たちがしっかり実績を残したおかげで、日本人に対するリスペクトがありました。自分が投げているときにストライクを取ってくれないという嫌がらせもゼロでした。むしろ、日本のアンパイヤより平等で正確だったんじゃないかな」 唯一、日本にはないピッチクロック制度には戸惑った。「間(ま)が取れなくて、落ち着かないうちに投げなきゃいけないので難しかった」と藤浪は言う。 「難しいんですが、ゲーム自体はめちゃくちゃ早く終わるんですよ。それで、観客数も増えました。盗塁も増えています。なにせ、牽制が2回しかできないんで。キツいですけど、これも慣れてしまえばなんとかなる。それにメジャーは盗塁されることを全然気にしないんですよ。クイック、自分は1.1~1.2秒前半なんですけど、『FUJI、やめてくれ』と言われましたから。日本だとクイックが1.2秒前半で一軍レベル。1.3秒を超えてくるとバシバシ走られます。逆に1.1秒台だと、よほど牽制が下手じゃないかぎり、走ってこない。以前、阪神にいた久保康友さん(43・ハンブルク)が異様に早くて1.0秒台でした。ところがメジャーでは『クイックは1.3秒前半でいい。ちゃんと投げることに集中してくれ。素晴らしい技術だと思うけど、そんな速くする必要ないだろう』と言うんです」 アスレチックスと契約合意に至った後のフライデーのインタビューで、藤浪は「そろそろ結婚してもいい。極端な話、アメリカ人女性でも」と語っていたが、プライベートもアメリカに適応できたのだろうか。 「全然、全然(笑)。まず、食事に行く暇がない。野球の日程でパンパンなんで。移動距離もエグいですし、日程的にもカツカツ。毎日野球して、寝て、昼起きて、野球してっていう繰り返し。日本にいたときのほうが、よっぽど食事に出られてましたね。そもそも、飲み会っていう文化がアメリカにない。選手で連れだって食事に行くこともあまりない。リリーフだと休みが本当に少ない。月2~3日だったりする。 遠征先で休みとなると、昼まで寝てスタバにでも行ってコーヒー買って、そのへんのベンチ座ってゆっくりするとか、そんなんで終わってましたね(笑)。そのかわり、メジャーリーガーはオフが充実しています。秋季キャンプがないので、オフに入った瞬間に遊びに行く。釣りとかゴルフとかハンティングとか。丸々、1ヵ月くらい野球から離れるんじゃないですか。自分も一応、ゴルフバッグをアメリカに持って行ったんですけど、スプリング・トレーニングのときに一度回ったきりで、それ以降、1回も行けなかったですね」 結局、休日は「ゆっくり寝ようかとなる」と笑う藤浪だが、こと睡眠に関しては「日本人メジャーリーガーで最もこだわったのではないか」という自負がある。 「意識して身体を休めるようにはしていました。おそらく日本で一人しかいない、スリープ(睡眠)トレーナーの方と契約して、睡眠の質の改善にチャレンジしたんです。アメリカって、国内で移動するだけでも時差がある。たとえば、試合のスケジュールをスリープトレーナーに見てもらって、『ここからここへ移動で使う飛行機で昼寝をしてもいいですか?』と聞くと『ダメです。ここは頑張って起きていてください』などとジャッジしてくれる。 寝るときのウェアも決まっていて、Tシャツで寝るのはダメ。長袖・長ズボンで汗を吸いとって蒸発させてくれるウェアが推奨されています。肌触りも大事。ちょっとでも引っ掛かりがあると、寝返りなどの動きに制限がかかり、ストレスになるんです。これらはほんの一部で、夜の睡眠の質を落とさないための細かいアドバイスがたくさんある。指導を守りつつ『睡眠時間10時間』を目指します。日本にも遠くない未来に、スリープトレーニングが導入されると思います。ウェイトトレーニングとか、栄養学だとかをやり出すと、睡眠に行き着くと思うんで。すでに海外では睡眠の大事さがあちこちで叫ばれていますよ」 藤浪のスリープトレーナーは女性で、阪神時代からの知り合い。これまでは一回のセッションごとにフィーを支払っていたが、メジャーに挑戦するにあたり、年間契約を締結したのだという。イチローも松井秀喜も、成功者は皆「睡眠の大事さ」、「睡眠時間からのスケジュールの逆算」を口にしている。藤浪がメジャー1年目をケガなく完走できた背景にスリープトレーナーの貢献があったのは間違いないだろう。シーズン中に会いに来た阪神時代の先輩、藤川球児(43)も「ケガなく投げられているだけでスゴい」と褒めてくれたという。 「ケガがなかった一つの要因として、睡眠の質の向上はあるのかもしれないですね。睡眠の質が下がるので、お酒もほとんど飲まなかった。わかってはいましたけど、節酒すると圧倒的に身体がラクなんです。毎朝、爽快に起きられますし。飲んでるときは、それはそれで楽しいんですけどね(笑)」 世界最高峰の舞台への挑戦。身体の不調やケガへの対処にリソースを割くことなく、野球に全力投球できたのは大きかった。スゴ腕女性のサポートを得て経験値を積んだ藤浪が、2年目の戦いに挑む。
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