黒部の恵み、半農半芸で発信10年 歌手の吉田さん、ヤギチーズ作り
●30匹→80匹に拡大 一流レストラン採用 歌手「Tomomi」として活躍する吉田朋美さん(42)=黒部市=が同市の牧場でヤギチーズ作りを始め、今年で10年の節目を迎えた。ヤギ30匹からスタートした事業は80匹に規模を拡大、黒部産にこだわった高品質チーズの販売先は首都圏の一流レストランに広がった。吉田さんは、畜産業を営みながら歌手活動に取り組む「半農半芸」のスタイルで黒部の魅力を発信している。 【写真】標高355メートルの高台の放牧場で草を食べるヤギ ヤギチーズ作りはYKK相談役の父忠裕氏が2015年の北陸新幹線金沢開業を見据え、「100パーセント黒部産のヤギ乳で世界に誇れるチーズを作りたい」と発案した。神奈川県の湘南に暮らし、歌手活動をしていた三女朋美さんに、歌は黒部に住みながらでもできると白羽の矢が立った。 朋美さんは本場イタリアで「チーズの神様」と呼ばれる農家のもとに通い詰め修業した。黒部市宇奈月町栃屋の市営くろべ牧場の一角、標高355メートルの高台にあるヤギ牧場で13年に初めて試作品を手掛け、14年から販売を開始。有限会社吉田興産(Y&Co)の代表は忠裕氏が務め、朋美さんは取締役として製造・加工・販売を取り仕切った。 コロナ下、朋美さんはミシュランなど各レストランガイドで評価の高い著名レストラン宛てに手紙を書き、シェフらを牧場に迎えて案内するなどして黒部のヤギチーズの良さを売り込んだ。今や取引のあるレストランは全国約30店に上るという。 商品ラベルには「KUROBE」の文字を入れ、「黒部発」にこだわってきた。今後、スイーツや土産品などチーズ以外の商品を開発し、黒部のヤギ乳製品・加工品をもっと身近なものにしたいと考える。 国内産のヤギチーズは製造業者が少なく貴重であり、14年にチーズプロフェッショナル協会(東京)が主催する「ジャパン・チーズ・アワード」3部門で銀賞を獲得。15年には、イタリアのヤギチーズ・ヨーグルト世界大会初挑戦でアジアの工房として初めて最高賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得ている。 ●水、潮風、塩「地の利に感謝」 「3千メートル級の立山連峰からの水、富山湾から吹き込む潮風、そして富山湾の海洋深層水から作った塩と、この地ならではの自然の恵みのおかげです」。昨年度に富山新聞芸術賞を受賞した歌手活動の傍ら、チーズ作りに励んできた朋美さんは地の利に感謝する。 「ふるさとで農業をするのが、YKK創業者の祖父の代からの夢でした。私の代で形にでき、幸せです。黒部のヤギ乳を全国、世界へ広め、観光振興にも貢献したい」。「半農半芸」で10年を駆け抜けてきた朋美さんは、心地の良い風が吹く牧場で目を輝かせた。