石破首相の同盟外交:漂う危うさと疑問
ハードル高い地位協定改定論
石破氏が訴える日米地位協定の改定は、さらにハードルが高い。在日米軍が日本を守り、日本はそのための基地施設を提供する――という「非対称的双務条約」とされる日米安保条約に対し、石破氏はかねてから「日米は対等でない」と主張してきた。総裁選でも、「米軍基地を日米共同管理とする」、「自衛隊を訓練のために米領グアムや米国本土に常駐させる」などと主張し、総裁選に向けて米国の保守系シンクタンクに掲載した寄稿でもこれらの構想を公表してきた(※3)。 これに対し、米政府内では「米国を守るのでなく、訓練だけの(自衛隊)基地なら不要だ」(※4)と疑問視する声が出ている。米紙でも「石破氏の同盟再構築案は米政府との新たな緊張を予感させる」と、警戒感をにじませて報じられた(※5)。 石破氏は宿願の憲法改正を果たした上で、「日本が独自の軍事戦略を持ち、米国と対等に戦略と戦術を自らの意思で共有できるまで安全保障面の独立が必要である」(上記シンクタンク寄稿)という日本を目指したいのかもしれない。しかし、日米両政府の指導者や実務家がこれまで地道に積み上げてきた現実的な軌跡を無視して自説にこだわるようでは、米国はもちろん、国民の理解と共感を得ることもできないだろう。
ようやく聞けた「自由で開かれたインド・太平洋構想」
石破氏は10月4日、衆参両院本会議で行った就任後初の所信表明演説で「現実的な国益を踏まえた外交」を通じて、日米同盟を基軸に友好国・同志国を増やし、外交力と防衛力の両輪をバランスよく強化すると語った。「自由で開かれたインド太平洋というビジョンの下に、法の支配に基づく国際秩序を堅持し、地域の安全と安定を一層確保する取り組み」を主導するとも言明した。 「自由で開かれたインド・太平洋構想」(FOIP)は、故安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の過去3政権が米国や国際社会に訴え、賛同を拡げてきた外交・安保戦略である。石破氏がこれについて触れたのは初めてで、アジア版NATOや日米地位協定改定といった構想にも一切触れなかった。 持論を封印して歴代政権の路線を踏襲する意思を示す演説としたのは評価できる。ウクライナ侵略や中東情勢など安全保障環境が激変しつつある今だからこそ、日米同盟を堅実かつ現実的な方法で深化させていくべき時だ。石破氏とその閣僚たちは、同盟・パートナー諸国の声にも謙虚に耳を傾けつつ、今後も現実外交を進めることに専念することが求められる。