元NPB審判員記者が見た4種の動く球 「198センチ左腕」東海大相模・藤田琉生投手には輝かしい未来が
11年から6年間、NPB審判員を務めた柳内遼平記者(34)が、フル装備で選手の成長や魅力をジャッジする「突撃!スポニチアンパイア」。第17回は日本ハムのドラフト2位左腕・東海大相模(神奈川)の藤田琉生投手(3年)。身長1メートル98で最速150キロのビッグな大器は26日に仮契約を結び、「ビッグボス」新庄監督が待つ北の大地で飛躍を目指す。 特別な緊張感が漂っていた。名門校の練習施設。一瞬たりとも気を抜けない覇気を選手が発している。甲子園優勝経験のある同じ神奈川の横浜、仙台育英(宮城)、健大高崎(群馬)も同じだった。取材で外からは見たことがあったが、原辰徳、菅野智之ら名選手の涙と汗が染み渡る土を踏みしめたのは初めて。キャッチボールに入ろうとする藤田に意識を聞くと「強く投げることッス」。正直、気おされた。 18メートル44の距離で球審をすれば、本当の投手の力量に気づくことができる。今夏の甲子園、U18高校日本代表で藤田を担当してきたが、今回の突撃で全く違う投手に見えた。「1メートル98の長身から投げ下ろす」と浅いことを書いていた己が恥ずかしく思えた。真の姿は4種類のムービングファストボールを武器にする左腕。プロでは身長の低い、球速の遅い投手にありがちなタイプで、1メートル98から150キロを投げ込む変則左腕は見たことがない。 (1)糸を引く直球 右打者の内角へ真っすぐに食い込み、空振りを奪いにいくウイニングショットとなる。 (2)シュート ボール2個分ほど左打者側に横滑りする。芯を外すことができ、詰まらせて内野ゴロを誘う。 (3)シュートホップ 強く指がかかった時にシュートしながら上方へのホップ成分が強くなり空振りが奪える。 (4)シンカー リリースで指が開き気味となった際にシュートしながら沈む。シュートホップとは反対で、上下の変化差を生む。 こんなにジャッジが難しい投手はいない。体感で145キロ超で「直球がきた!」と思っても、そこから4つの異なる軌道を描く。投球を終えた藤田は「それを生かして打ちづらい投手になりたい」と変則投手の思考法を明かした。4つの軌道は「リリースと手首の角度で決まる。最後の指のかかりで分かる。チームメートにもやっかいだと言われる」とする唯一無二の武器だ。 4種の直球、ナックルカーブはプロでも使える。日本ハム入り後はイースタン・リーグで立ち向かっていけると思う。打ち込まれたときには、スライダーやスプリットなど球速帯の違う球種習得を目指してほしい。まずはアマチュア時代に持っていた自分の良さで勝負することが大切。第3の武器をマスターしたときには、メジャーに挑戦する未来さえ想像したくなる。 ダルビッシュ有、大谷翔平を育てた日本ハムで羽ばたいてほしい。当企画の締めはストライクポーズの記念撮影。2人でタイミングを合わせて「ストライク!」と絶叫すると、この日初めて藤田が笑った。 【取材後記】今夏は台湾でU18アジア選手権を戦った高校日本代表に密着。開会式で撮った写真がSNSで141万PVとバズった。藤田らナインが、ダンスを踊る台湾のチアに熱視線を送る一枚。それぞれの表情に個性がにじんだ。帰国後、シャッターを切った瞬間に選手はどんな思いだったのか気になった。ドラフト前の佐賀で開催された国スポで関東第一(東京)の坂井遼(ロッテ4位指名)に聞くと「見といた方がいいかなと思って」。ジャパンのムードメーカーは正直に照れ笑いを浮かべた。めったに表情を崩さないことでファンから「戦う顔」と称される藤田はどうか。「自分たち以外にもグラウンドにパフォーマーがいるんだと感心した」とあくまで純粋な気持ちだったと回想。ギャグメーカーの坂井と鉄仮面の藤田。どちらもプロ野球で人気選手になる素質がある。 (アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平) ◇藤田 琉生(ふじた・りゅうせい)2006年(平18)11月17日生まれ、神奈川県出身の18歳。小1から羽鳥ファイターズで野球を始め、羽鳥中では湘南ボーイズに所属し、3年夏に全国優勝。東海大相模では1年秋からベンチ入りし、今夏の甲子園では8強入りに貢献。50メートル走5秒96、遠投100メートル。1メートル98、96キロ。左投げ左打ち。 ◇柳内 遼平(やなぎうち・りょうへい)1990年(平2)9月20日生まれ、福岡県福津市出身の34歳。光陵(福岡)では外野手としてプレー。四国IL審判員を経て11~16年にNPB審判員。1軍初出場は15年9月28日のオリックス―楽天戦(京セラドーム)。16年にMLB審判学校卒業。同年限りで退職し公務員(行政)を経て20年スポニチ入社。