西垣匠、フェンシングが活かされた芝居の距離感 今の“目標と夢”への思いも明かす
「できないほうが楽しいですし、より頑張れる」
――西垣さんはフェンシングの日本代表も経験されたそうですが、競技が俳優の仕事に活きていると思うことはありますか? 西垣:フェンシングって、相手との間合いを見る競技なんです。「相手が何を考えているか」「こういうタイミングで入ってくるな」ということを常に読み合っているので、距離感が一番大事で。相手は突けないけど自分が付けるタイミングが存在して、それをずっと探している。だから、相手との間合いを見る目は養われたかなと思います。お芝居でも、人間関係の中で物理的な距離感もそうですし、心の距離にも間合いは大切だと思うので、そこははかりながらやれている気がしますね。 ――そんなご経験を経て俳優として活動されていますが、あらためて西垣さんにとって仕事をする意味とは? 西垣:『ドラゴン桜』のときに感じたことなんですけど、たとえば次の日が仕事で鬱屈とした気持ちがある方に、「明日も頑張るか!」と前を向いてもらえるようなドラマが日曜劇場だと僕は思っていて。そんな作品に初めて出たときに、「元気や明るさをちょっとでも届けられたらいいな」という気持ちが芽生えて、それが僕の原点になりました。“まっさらな状態で抱いた気持ち”を根っこに持っておかないと後々ブレるだろうなと思ったので、何か迷いそうになったときには、そこに立ち返るようにしていますね。それがモチベーションというか、この仕事をしている意味にも繋がるのかなと思います。 ――ちなみに、デビューから『ドラゴン桜』までは、どのような思いでお仕事を? 西垣:どうだったんだろう……でも、「テレビで観たことがある人がいる」みたいな気持ちも捨て切れなかったですし、今考えたら半分素人だったなと思います。それに、わからないことがありすぎて、とにかく一生懸命やるしかないなと。浮足立っているというか、ふわふわしている感覚がずっとありました。 ――『ドラゴン桜』で意識が変化したというのは、反響の大きさによるものですか? 西垣:いや、現場ですね。福澤克雄監督、阿部寛さん、長澤まさみさん、そして今をときめく生徒陣。(髙橋)海人や(鈴鹿)央士とか、東大専科の人たちが本当にみんな頑張っていたんですよ。あんなにも同世代が同じ方向を向いているって、なかなかないなって。僕は『ドラゴン桜』が初めてのレギュラー作品だったので、それが普通だと思っちゃったんですよね。もちろん、他の現場がそうじゃないわけではないけれど、今になって「あの作品って大切だったんだな」「熱量のある現場だったな」とものすごく思います。そういった意味でもいいきっかけというか、考え方が変わる作品でした。 ――今回の『海に眠るダイヤモンド』は、生きる意味についても考えさせられる作品です。 西垣:冷たい人だと思われるかもしれないですけど、僕、生きる理由は死ぬ理由がないからだと思っているんです。極端な話、身近に死を感じるような立場にならない限り、「生きたい」とは思わないと思うんですよね。でも、だからこそいつ死んでもいいなと思えるくらい、後悔のないように生きたいなって。そのために、毎日ちゃんとやることをやって、おいしいものを食べる。そうして自分のベッドで寝られれば、僕は幸せかなと思います。 ――ドラマでは、登場人物の夢についても描かれていますが……。 西垣:僕にも夢はありますよ(笑)。この業界に入ってから、ずっと日本アカデミー賞で新人賞を取ることが、夢というより目標です。僕は、今頑張ったら達成できるものは“目標”で、今の自分じゃ達成できないものが“夢”だと思っているんです。目標を達成する頃には、自分が今まで夢だと思っていたものが目標になっていて、また新しい夢ができる。そうやって人は成長するのかなと思っていて、その中で今、自分が目指すべきものはそこだと思っています。 ――具体的に日本アカデミー賞というのは、何か理由があるのでしょうか? 西垣:映画が好きだからですかね。あとはせっかく東宝芸能に所属しているので、やっぱり映画で活躍したいなと思います(笑)。でも、この業界に入る前から「日本アカデミー賞」の表彰式は見ていたんです。当時は「この1年、こんな映画があったなぁ」くらいの感覚で、正直みなさんのインタビューをしっかりと聞いたことはなかったんですけどね。でも、この仕事を始めてからあの舞台がどれだけすごくて、なぜスピーチの最中に涙が出てくるのか、ということが多少なりともわかるようになって。「自分もあそこに立ってみたいな」という気持ちが強くなりました。 ――実際に業界に入ることでイメージが変わる、という点では、役者そのものの印象に対するギャップもありますよね? 西垣:今では考えられないですけど、この仕事を始めるまでは「セリフを覚えて、涙を流すときに泣ければ俳優」だと思ってたんですよ。「顔が綺麗だったらなれるんでしょ」って、本当になめてたんですよね(笑)。でも実際にやってみて、こんなにもセリフを話すことに違和感があって、体も動かないものなのか、と。「普通の人は、こういうときにこう動くよね」と言われると「確かに」と思うけど、それが自分にはまったくできない。しかもお芝居には正解がないので、「いい」と言ってくれる人もいれば、「こうだったんじゃないの」と意見してくれる人もいる。とにかくギャップしかないです。想像していた世界と全然違いましたね。 ――きっと、できないほうが燃えるタイプなんですね。 西垣:本当にそうで、それはまさにフェンシングをやっていたおかげかなと。体育会系なので、できないほうが楽しいですし、より頑張れるなと思います。
nakamura omame