天心、堀口不在のノーTVでもRIZIN白熱。KINGレイナは減量失敗で判定負け「最後は唾で……」
浅倉が計算づくの戦略で矢地に圧勝
レイナの敗戦とは対象的にインパクトのあるRIZINデビューを飾ったのが、UFC参戦経験がある韓国女子格闘技界のパイオニア、ハム・ソヒだった。「初心に帰る意味で」と、12年前に日本のリングに初めて立ったときに着用したというスカート風のコスチュームで登場すると見事にビルドアップした肉体で前澤を圧倒。強烈な膝蹴りを脇腹にめりこませると、苦しくなって思わず下がった前澤の顔面に容赦なく、また膝小僧をガツン。コーナーに崩れ落ちた前澤にラッシュをかけてTKO勝利をつかんだ。 「緊張しました。前澤選手がやりにくい相手なので、なおさら緊張しました。二―(膝蹴り)がタイミングよく決まってくれました」 リング上でマイクを持つとリングサイドにいた山本美憂へ対戦をアピール。応えてリングに上がった山本も「ハムさんの試合を見ていて対戦したいなと思いました」と返答した。 「山本さんはレスリングも打撃もバランスのとれた試合巧者。すぐにタイトルとは言えない、一人ずつ勝ってレベルアップをして最終的にはチャンピオンとやりたい」 榊原信行実行委員長も、RIZIN女子スーパーアトム級王者、浜崎朱加への挑戦者決定戦として10月12日に大阪のエディオンアリーナ大阪で開催される「RIZIN.19」で、このカードを組むことを約束した。 この日の12試合のラインナップは、リングサイドにいた天心、堀口の両エースの試合のない地味なカードだった。ボクシング界のビッグネームのフロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオの名前を引き出すテレビ的な仕掛けもない。マニアチックすぎて地上波放映はなかったが、かえって試合進行もスムーズで、客席も、ほぼ埋まっていた(主催者発表は満員の16930人)。会場には根っからの格闘好きが作り出す異様な熱気があった。 メインは、試合前から舌戦で盛り上げた矢地と浅倉兄弟の兄・未来の胃が痛くなるような緊迫感のある戦い。浅倉が一度もテイクダウンを奪われず(ロープをつかむなどグレーな行為もあったが)、計算し尽くしたローキックで矢地の右足を真っ赤に腫らして破壊。そこにボディ、右フックなどのパンチ攻撃で優位に立ち、ゴング間際には左ストレートでダウンさえ奪った。KO決着にはならなかったが内容的に朝倉の完勝。玄人好みする好ファイトだった。 堀口への挑戦をターゲットとするセミファイナルで石渡伸太郎(34、CAVE)が佐々木憂流迦(29、Serra Longo Fight Team)からタップを奪った試合も白熱した。 榊原実行委員長曰く「格闘技を知らない人にどこまで届くか、世間との勝負。試験的なマッチアップをした」そうだが、格闘マニアの域にない“お茶の間”の人たちにとって、馴染みのない名前が並ぶカードで、これだけのファンを集めた。ネット中継の視聴ユーザー数は、速報値では、過去最高の数値だったという。 「格闘技の魅力がぎっしりと詰まり熱が作れていた。最後の3試合は、それぞれダイナミズム、魅力、フィニッシュの仕方も三様だったが極上の試合。いい形でドラマを次へ展開できる作品になった」 榊原実行委員長も満足そうだった。 ノーテレビだったが、格闘技が持つ潜在的なポテンシャルと、その可能性を示した「RIZIN.17」だった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)