内山が2回KO負けでV12失敗 敗因は戦う理由の欠如
だが、内山は、「最初にペースを失ったので2回から先手を取ろう」と、左ジャブを増やし、少し自分のボクシングスタイルを崩して強引に前に出た。オフェンスに気持ちが傾きすぎてガードも低かった。 内山の何かが狂っていた。 “ダイナマイト”を恐れずに拳を振り回してきた挑戦者の勇気と、その荒っぽいスピードに戸惑い、本来のボクシングスタイルを見失ったのか。それとも36歳の年齢からくる衰えで対応力が落ちていたのか。 内山のフィジカルを見る土居進トレーナーは「今回は、動きの中での対応力を高めるトレーニングを積んできた。体調には問題はなかった」という。 渡辺会長は「打ち合いはするな!と言ったが、徹底されていなかった」と振り返る。 「もう少し危機感を持っていればよかった。周囲に慢心、油断があった」とも、つけ加えた。 内山を狂わせたもののひとつ……それは渡辺会長が実現させることのできなかった海外のビッグチャンスに他ならない。陣営は、当初、ビッグネームのノニト・ドネアを倒して、階級をスーパーフェザーに上げてきた元WBA世界フェザー級スーパー王者のニコラス・ウォータース(ジャマイカ)にターゲットを絞っていた。だがWBAから、正規王者であるハビエル・フォルトゥナ(ドミニカ)との統一戦を指令されたこともあり、交渉は暗礁に乗り上げた。結局、フォルトゥナとの試合も海外進出も流れ、暫定王者になったばかりのコラレスとの統一戦に落ち着いた。 この日、内山は、「モチベーションに問題はなかった」と断言したが、チャンピオンのプライドを賭けて、そう言わざるを得なかっただけである 生臭いプロボクシングの世界を長年うろついてきた筆者は、プロボクシングが興行であることは、よく理解している。だが内山は、もう36歳。ジムにも、ボクシング界にも、これ以上ない貢献をしてきた。旬の時代が、そう長くない36歳の王者が、集大成として挑むつもりだった夢舞台でのビッグマッチが、十分に納得できないような理由で流れたのである。心のどこかに空いた大きな失望の穴が、この日の狂わせた2ラウンドにつながって見えるのは、筆者だけだろうか。 引退か、再起か。内山は、この先のことを聞かれて「今はよくわからない」と言葉を濁した。 彼がモチベーションを抱けるような舞台が約束されない限り、再びリングに戻ってくる理由を探すのには苦労するだろう。フィジカル担当の土居進氏に言わせると「肉体的には何の問題もない」ということらしい。“爆弾”だった拳の怪我の不安も安定している。後は、内山の心に宿る“戦う男の火”が、再び熱く燃え上がるかどうか。ボクサーの本質。戦う理由を見つけられるかどうかにかかっている。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)