貴族社会の陰りが見えた刀伊の入寇の「ダメ対応」…藤原公任の冷たい判断の理由は【光る君へ】
公任までも道長のために…「F4」の絆に驚き
しかしこの『光る君へ』では、そういった中央貴族たちの危機意識のなさに加えて、隆家を道長の敵と見なした貴族たちが、彼の力を削ぐ(または戦死してもらう)ために、朝廷が関わることに反対した・・・という説をかかげた。実際に道長の「四納言」のうち、公任と行成は「私闘なので褒賞は不要」という意見を述べたことが記録に残っている。行成は、以前から隆家を敵視するような発言を繰り返していたので理解はできるが、公任までもが道長を守るために、隆家に不利になるよう立ち回ることになるとは思っていなかった。 これにはSNSでも「公任にしては随分薄情な差配だと思ったら、そういうことだったのかの種明かしに胸アツ」「公任、おまい、そんなに道長くんにクソデカ感情持ってたんかい」など、衝撃を受けた人が多かった模様。 「俺ってやさしいから」と自分で言っていた公任らしくない、隆家への冷たい態度は、公任が政治的な状況よりも個人的な感情の方を優先したからだった。これは視聴者に「F4」と呼ばれた、道長+公任+行成+藤原斉信(金田哲)とのズッ友な関係を、ここまで丁寧に描いてきたからこそ生まれた驚きと説得力だろう。 だが、まひろに関してはともかく、政治家としては非常に有能な道長にとっては、そんなつまらない私情で、隆家の功績を否定した公任に「そうだよね! ありがとうね!」とはならなかった。おそらくもう彼のなかでは、国防のことを考えなければいけないという段階をとっくに越えて、地方で力を持つ武士たちを今のうちに中央がコントロールするようにしないと、武力が幅を利かせる世界になる・・・という未来まで見えていたのではないだろうか。 道長があの「望月」の歌を詠ったときからわずか1年後とは思えないほど、時代が貴族の世から武士の世へと急激に舵を切ったという実感を、確かに感じさせた刀伊の入寇。次回の最終回はおそらくまひろ&道長の人生の集大成のターンに入ると思われるけど、それが平安貴族社会の最後の輝きのように、私たちの目に映る最終回になるのではないだろうか。まだドラマは終わっていないが「時代の波を描きたい」と言っていた脚本・大石静と制作陣の意志は、きっちりと私たち視聴者に伝わったと、今のうちに述べておきたい。 ◇ 『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。12月15日放送の最終回「物語の先に」では、藤原道長とまひろの関係を知った道長の嫡妻・源倫子(黒木華)がまひろにある願いを託すところと、道長がみずからの死期を悟って最後の決断をする姿が、15分拡大版で放送される。 文/吉永美和子