エボラウイルスの「自然宿主」、コウモリは共に進化してきた可能性も

エボラで死なない理由を解き明かすために捕まえた野生のコケンショウコウモリを、研究室に戻る前に、自由に飛べる大きなテントに移す。その際「コウモリにマンゴージュースを少し与えます」と研究者。（PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI）

　空を飛ぶのに鳥ではなく、小さくて毛が生えているのにネズミではない。単に気味が悪いと思う人もいれば、新型コロナウイルスのような病原体をもっているかもしれないと心配する人もいる。だが公正を期すために言えば、狂犬病のイヌの方がはるかに多くの人命を奪っているし、カモやブタはインフルエンザウイルスを媒介するが、それらの動物がコウモリのように恐れられることはない。 【動画】雪の中で冬眠するコウモリ、初の報告 　そんなコウモリの遺伝子から免疫の謎を解き明かそうと考える研究者は多い。実験用マウスにコウモリの遺伝子を組み込んだところ、コウモリインフルエンザに対する抵抗力を示した例もある。研究者が知りたいのは、コウモリのすべての種がウイルス全般に対する免疫上の強みを備えているのか、それとも病気への抵抗力は種によって、あるいは特定のウイルスへの暴露（ばくろ）歴によって異なるのかということだ。 　コウモリのなかには「保有宿主」といって、ウイルスを宿していても発症しない種がある。ウイルスの保有宿主は、普段そのウイルスにさらされていない近縁種とは、異なる反応を示すと考えられる。 　エボラが典型的な例だ。コウモリは、ヒトなど一部の哺乳類に重篤な影響を及ぼすエボラウイルスの自然宿主であると、大半の研究者が考えている。血液を調べると、エボラにさらされた痕跡を示す種と、そうでない種がある。ウガンダでは、米国とウガンダの研究者のチームが、遺伝子の活動を詳細に調べることで、エボラに対する反応がコウモリの種によって厳密にどう異なるかを突きとめようとしている。 　米バックネル大学のディーアン・リーダーはこう話す。「コウモリがいったいどうやって、あれだけすごいことをやってのけるのか知りたいのです。免疫系もそのうちの一つです。コウモリは自ら発症することなく、病原体を手なずける能力が非常に優れているんです」 　リーダーらが研究している種の一つがコケンショウコウモリだ。この種と近縁種には、エボラウイルスにさらされた痕跡が見つかっている。それは、この種がエボラウイルスとともに進化してきた可能性を示唆している。 　ということは、ほかの種より感染に対して高い耐性をもっているかもしれない。そこで、エボラのタンパク質の1回目の投与と2回目の投与の後に、どの遺伝子がどの程度活性化するかを知るため、投与済みの集団と、未投与の集団それぞれの血液と組織を調べる。 　何らかの病原体と共進化したと思われるコウモリの場合、「そのウイルスによって死ぬ心配はありません。病気にさえならないのです」とリーダーと同じ大学のケン・フィールドは言う。ほかの種と比較することで、耐性を備えた種の免疫戦略を解明できるのではないか。そして、それと同じ反応を示すようにヒトの免疫系を操作することはできるのか。これは大きな可能性を秘めた問いだ。 　たとえば、新型コロナウイルスが猛威を振るったとき、感染者がサイトカインストームを起こす事例が確認された。これは、感染者の体内でサイトカインと呼ばれるタンパク質が大量に放出され、命に関わるほど重度の炎症が起きる状態を指す。薬によってコウモリの免疫系をまねる方法が見つかれば、こういった事例が防げるかもしれない。 ※ナショナル ジオグラフィック8月号特集「コウモリ　ある愛の物語」より抜粋。