5月27日早朝、中学校の正門で遺体の一部を発見。日本中を震撼させた「神戸連続児童殺傷事件」。その時警察は
---------- 30年を超える記者生活で警察庁・警視庁・大阪府警をはじめ全国の警察に深い人脈を築き、重大事件を追ってきた記者・甲斐竜一朗が明らかにする刑事捜査の最前線。最新著書『刑事捜査の最前線』より一部を連載形式で紹介! ---------- 警察が「酒鬼薔薇聖斗」を逮捕するまで――少年の情報を知るのは15人のみ
「神戸連続児童殺傷事件」の発生
「歩いている人は全員、職質しろ」。神戸市須磨区のニュータウンで1997年2~5月、小学生5人が相次いで襲われ、小学4年生の山下彩花さんと6年生の土師淳君が殺害された。猟奇的な犯行で社会を震撼させた「神戸連続児童殺傷事件」。早期解決へと導いた捜査指揮の一つは、徹底した職務質問の指示だった。 同年5月27日早朝。須磨区の中学校の正門前で、切断された男児の遺体の一部が見つかった。「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」と名乗り〈さあゲームの始まりです〉〈学校殺死〉などと書かれた「挑戦状」も添えられていた。 男児は24日から行方不明だった淳君と分かり、さらに遺体の別の部分が住宅街の一角にある通称「タンク山」と呼ばれる小高い山の頂上付近にあるケーブルテレビ中継アンテナ基地で見つかった。ニュータウンではそれまで小学生4人が襲われ、金づちで殴られた彩花さんが死亡しており、住民は恐怖と不安に包まれていた。 兵庫県警の刑事部長だった深草雅利は27日午前7時ごろ、県警本部の刑事当直から警察電話で「学校の校門に遺体の一部と思われるものが置いてあります。判明していませんが行方不明の少年と思われます」と連絡を受け、同8時ごろには中学校正門前に臨場する。すでに鑑識活動が始まっていた。その場で「犯人は愉快犯」だと強く感じたという。 遺体の一部は発見時、校門の門柱の横に置いてあったが、門柱の上には遺体の一部を置いた形跡があった。「人の目を意識した置き方」と直感し「犯人は警察の動きを探るため必ず現場周辺を見に来る」と考えたという。 深草はその日のうちに捜査本部で、捜査1課長ら幹部に「現場周辺を歩いている人たちは子どもから高齢者まで徹底的に職務質問してほしい。それを名簿にし、パソコンに登録してくれ」と求めた。深草の指示で手が空いている捜査員らは徹底して職質要員に振り向けられた。現場周辺では連日、580人態勢で職質や警戒、聞き込みに当たった。警察官の大量動員は住民の不安解消につながることにもなる。 それから数日後のことだった。中学校からもタンク山からも半径500メートル以内の路上で、捜査1課の巡査部長が歩いていた中学3年生の少年を職務質問した。「何やってるの? 事件についてどう思う?」。巡査部長の質問に対し、少年は〈さあゲームの始まりです〉〈愚鈍な警察諸君〉などと記された挑戦状の文言を取り上げ、「新聞で読み、格好良いと思って挑戦状を暗記していた」と話したという。 巡査部長は「変な少年だ」と感じ、被害者を知っているかと聞くと、この少年は「知らない」と答えた。