大谷翔平の衝撃の完全未遂試合の裏に隠された綿密な工夫とは?
上は、4月1日の初登板時の球種別の投球数に応じた球速を示したグラフだ。一番上の茶色の線がフォーシーム、2番目の赤い線がスプリット、3番目の緑の線がスライダー、一番下の線がカーブを示す。縦の単位がスピードで、横の単位は球数となる。1球ずつを折れ線グラフにしてある。
続いて上が2回目の登板のもの。この2つのグラフを比較すれば、2度目の登板のグラフの方が、スプリットの球速が波打っていることがわかる。4シームも今回の方が幅が大きい。 結局、4シームにしてもスプリットにしても球速が速いだけに、投げ分けが可能なのかもしれないが、そうした“差”を利用するのが上手いのが、クレイトン・カーショウ(ドジャース)だという。 以前、 国学院大准教授で投手の投球動作解析を行っている神事努氏に教えていただいたが、カーショウの場合、4シームを巧みに投げ分け、相手から見ると、ポイントが6つも7つもあって、狙い通りに4シームが来ても、タイミングが合うとは限らないそうだ。それを神事氏は、「奥行き」と表現していたが、その言葉に倣うなら、大谷は今日、スプリットで奥行きを使っていたと言える。 正直なところ、左打者に2球種では、遅かれ早かれ、左打者が対応したはず。右打者に対しては、今回は少なかったものの、スライダーが加わって3球種だが、2つと3つでは劇的に相手の対応が変わってくる。 古い話になるが、1968年、ア・リーグの首位打者の打率が.301まで下がったことがあった。その年、リーグの平均打率は.237を記録し、今でも最低アベレージである。この頃実は、スライダーが世に広まった時期と一致し、それが一因とも考えられたが、このことをかつてイチローに聞くと、こう答えた。 「スライダーがというより、球種が3つに増えたことが大きいんじゃないですか」 それまでは、真っ直ぐとカーブだけ。球種が2つから3つに増えたことで、リーグは、マウンドを低くするなどの対応を迫られることになった。 そんな例からも2球種ではいずれ限界を迎えるのでは、と考えたわけだが、スプリットだけではなく、4シームでもあれだけ奥行きのあるピッチングが出来る。これだけ器用なピッチングが可能なら、15日(日本時間16日)に予定されているロイヤルズは、根本的に対策を練りなおさなければならないかもしれない。 なお、一夜明けて公開された、4シームとスプリットのデータを調べてみた。カッコ内は前回。 回転数(1分間) 横の動き(センチ) 縦の動き(センチ) 4シーム 2182(2219) 15.2(20.4) 43.0(39) スプリット 1162(2182) 14.3(18) 6.4(3.35) 前回、4シームとスプリットの横の動きが酷似していることを指摘したが、前回が2.4センチだったの対し、今回は9ミリ。相手打者は、さらに見分けがつかなかったのではないか。 これでもしも4シームの縦の動きが45センチを超えてくるようなら、相手は、あの100マイル(約161キロ)近い真っ直ぐが、ホップして感じられるようになり、2つの球種が一層、相乗効果をもたらすことになるのかもしれない。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)