俳優・佐野史郎がゴジラ解釈論を展開...最新作「ゴジラ-1.0」から第1作まで「ゴジラには能に通じる要素がある」
日米で大ヒットを飛ばし、第96回アカデミー賞®で視覚効果賞を受賞するなど、一大旋風を巻き起こした『ゴジラ-1.0』が7月6日(土)、WOWOWシネマでテレビ初放送される。7/6(土)&7(日)には【「ゴジラ-1.0」初放送!ゴジラシリーズ総進撃】と題して、『GODZILLA 怪獣惑星』(2017年)、『GODZILLA 決戦機動増殖都市』(2018年)、『GODZILLA 星を喰う者』(2018年)、『シン・ゴジラ:オルソ』(2023年)、『ゴジラ-1.0/C』(2024年)、『シン・ゴジラ』(2016年)、『ゴジラ S.P <シンギュラポイント> (全13話)』(2021年)の7作品も特集放送。 【写真を見る】ゴジラ好き俳優と知られる佐野史郎が独自のゴジラ論を提唱 今回、ゴジラ映画への出演経験があり、ゴジラに造詣の深い俳優の佐野史郎さんに「ゴジラとは何か?」について話を伺った。 ■常に時代を反映し、節目ごとに第1作に立ち戻ってきたゴジラの歴史 ――――佐野さんはゴジラ映画の歴史をどのように捉えていますか。 「戦時中に戦意高揚映画として製作された『ハワイ・マレー沖海戦』(1942年)で花開いた特撮技術を駆使し、戦後10年がたとうとするとき、観客に心の平穏を与え、日本の暗い歴史を鎮めるために生まれたのが、1954年の第1作『ゴジラ』だと僕は考えています。言ってみれば、同じ技術を武器として使うか、平和利用するか、という宿命を背負ってゴジラは生まれたわけです」 ――――その後のシリーズ展開についてはいかがでしょうか 「ゴジラ映画は高度経済成長期にシリーズ化されましたが、その終焉(しゅうえん)とともに1975年、一度幕を下ろします。その時の『メカゴジラの逆襲』は、田中友幸プロデューサーと本多猪四郎監督、音楽の伊福部昭さんが久しぶりにそろい、さらに平田昭彦さんが科学者役で出演するという、第1作へのオマージュが濃厚な作品でした。9年後、バブル経済前夜の勢いに乗って復活した『ゴジラ』(1984年)も第1作を強く意識し、人類の味方になっていたゴジラを恐怖の象徴に引き戻しました。そして、東日本大震災後の2016年に製作された『シン・ゴジラ』は、『ゴジラとは何か?』という問いに、あらためてに向き合った作品だったと思います」 ――――その後、誕生したのが『ゴジラ-1.0』ですね 「常に時代を反映し、節目ごとに第1作に立ち戻ることを繰り返してきたのが、ゴジラ映画の歴史です。その点では、『ゴジラ-1.0』も、第1作を強く意識すると同時に、まさに日本や世界の現状を強く反映した作品という印象を受けました。最後に隻眼で登場した人物は、僕は(第1作『ゴジラ』に登場した)芹沢博士(平田昭彦)の亡霊だと思っています」 ■ゴジラ映画は神様にささげる現代の「能」 ――――ゴジラの造形についてはいかがでしょうか 「第1作のゴジラには表情がありません。それは、技術的に不可能だったためでしょうが、結果的に『表情が変わらないのに怖い』という能面のような効果が生まれました。さらに、完成したゴジラのスーツは重過ぎて足を上げることができなかったので、円谷英二特技監督(当時のクレジットは「特殊技術」)は、スーツアクターの方に『能のようにすり足で歩け』と指示されたそうです」 ――――ゴジラには「能」の要素があると? 「僕は、ゴジラを出雲大社の『神迎祭』で奉納される『龍蛇神(りゅうじゃしん)』に通じるものがあると考えています。『能』に通じる『芸能』のルーツをさかのぼってみると、見えざる力に対して畏怖し、ささげ、祈るという儀式にたどり着きます。つまり、ゴジラの生みの親である田中友幸プロデューサーが怪獣映画で目指したのは、『現代の能』だったのではないかと。それは、ゴジラだけでなく、キングギドラやモスラ、ラドンといった怪獣が、いずれも日本の古代神話を踏襲していることからも明らかです。そういった神話的背景を踏まえると、ゴジラ映画は『時代の不安を鎮めるための神様へのささげもの』だと考えられます」 ■『ゴジラ-1.0』の持つ意味 ――――終戦直後を舞台にした『ゴジラ-1.0』もその流れをくんでいると? 「混迷する世界情勢の中で、この先どう進んでいけばいいのか、暗中模索の状態にあるのが今の日本です。そこにはっきりとした答えが欲しい、安心できる救いが欲しい。その切実さは、終戦直後の混乱にも通じます。だからこそ、『ゴジラ-1.0』では終戦直後が舞台に選ばれたのではないでしょうか」 ――――『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞®視覚効果賞受賞については、どのように捉えていますか 「日米の映画界は、これまで長く技術的なキャッチボールを続けてきました。アメリカの『キングコング』(1933年)や『原子怪獣現わる』(1953年)に影響を受けた円谷監督らが、『ゴジラ』などの怪獣映画を製作。それを見た米国が技術力の高さに驚き、今度はSFXやVFXを発展させ、それが『ゴジラ-1.0』の誕生につながった。つまり『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞®受賞は、これまで続いてきた日米のキャッチボールの一つの到達点だと言えます」 ――――今後誕生する令和のゴジラ映画には、何を期待しますか 「今の時代、CGやVFXなしのゴジラ映画は考えられません。ただ、CGが主流となった近年は『テクニック』、すなわち『技芸』で見せる傾向が強くなってきたように感じます。俳優という仕事をしてて強く感じることなのですが、『技術』で見せるのではなく、能の心ともいうべき『どのようにしてその場にいるか』という『態』が何よりも大切なのではないかと思います。『芸』と『能』の心は、表裏一体でどちらが優れているというものではありませんが、円谷監督が目指したのは、『態』で見せるゴジラだったと振り返ります。そう考えると、スーツアクターが『態』で表現し、鎮めることに身をささげるゴジラの姿も、できれば今一度、見てみたいですね。また、ゴジラ映画はこれまで一貫して『反核・反戦』というテーマを貫いてきました。それは忘れないでほしいです」 (プロフィール)さの・しろう●1955年3月4日生まれ、島根県出身。1975年劇団シェイクスピアシアターの創立に参加。 1979年退団後、唐十郎が主宰する状況劇場を経て、1986年『夢みるように眠りたい」で映画主演デビュー。ドラマでは1992年「ずっとあなたが好きだった」(TBS)での冬彦役の演技が話題に。以降、数々の映画・ドラマ・舞台で活躍。朗読や写真、執筆、バンドの活動なども行う。出演映画「カミノフデ ~怪獣たちのいる島~」7月26日(金)より公開。 取材・文=井上健一
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