「血の通っていない、冷酷な判決」 ガーナ人男性への「生活保護」控訴審でも支給が認められず
8月6日、生活保護申請を千葉市に却下されたガーナ国籍男性が処分取消を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は男性の請求を却下・棄却する判決を出した。
腎不全を発症し、就労資格を失う
原告はガーナ国籍のシアウ・ジョンソン・クワク氏。 ジョンソン氏は2015年に留学ビザで来日。東京都内の日本語学校に通いつつ、留学ビザで認められている範囲でアルバイトを行っていた。卒業後はすぐに就職が決まり、在留資格は就労が可能なものに変更され、フルタイムの従業員として会社に勤務する。 しかし、2019年に慢性腎不全を発症。週に3回の透析が必要になった。会社を解雇され、在留資格は医療を受けるための「医療滞在」に切り替わったが、就労は禁止された。 ガーナでは施設が不十分であり、富裕層しか透析を受けることはできないため、ジョンソン氏は日本に住み続けることを決意。 しかし、就労が禁止されている以上、自分で生活費を稼ぐことはできない。そのため、2021年11月、ジョンソン氏は千葉市に生活保護を申請した。 同年12月、市は申請を却下。同月、ジョンソン氏は市に処分取消を求める訴訟を千葉地裁に提起。 2024年1月16日、千葉地裁は「生活保護法の対象に外国人は含まれておらず、自治体の裁量で行う保護に準じた支給についてもすべての外国人が対象となるものではない」として訴えを退ける判決を言い渡す。 今回の控訴審でも、東京高裁はジョンソン氏の訴えを退けた。
「処分性」の有無が争点に
判決後の記者会見で、及川智志弁護士は「人としての血が通っていない、冷酷な判決。怒りを禁じえない」と、裁判所の判断を強く批判した。 「判決文は、わずか8ページ。中身を読んでも、納得できる根拠が合理的に説明されていない。人の命がかかっている問題であるのに、裁判官が悩んだ形跡がまったく見えてこない」(及川弁護士) 控訴審では、1954年に厚労省が出した、外国人の生活保護受給権を認める行政文書「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」、通称「昭和29年通知」に「処分性」があるかどうかが争点となった。 処分性とは、行政庁の処分が取消訴訟の対象となるかどうかを決定する際に考慮される要素。「処分性あり」とされた処分に対する訴えは、審理の対象となった後に「棄却」か「認容(取消判決)」の判断が下される。一方、「処分性なし」とされた処分に対する訴えは、審理の対象とならずに排斥される。 昭和29年通知は法律上ではなく行政上のものであるため、通常は「処分性なし」と判断される。 一方、原告側で意見書を提出した法学者の奥貫妃文教授は、昭和29年通知は外国人が生活保護を受給するための唯一の根拠として70年間通用してきたこと、また生活保護は基本的人権である「生存権」に関わるものであることから、実質的には処分性があると判断されるべきだ、と主張。 しかし、東京高裁は2014年の最高裁判決を踏襲(とうしゅう)して「処分性なし」と判断し、生活保護の開始決定を求める請求などを却下。 また、市による処分の取消を求める請求などを棄却した。