「もしトラ」が促す日韓の新たな協力 窮地の韓国・尹大統領の今後
韓国で4月10日、総選挙が行われた。与党・国民の力は改選前に比べ6議席を失い、108議席にとどまった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の求心力は落ち、与党から造反する勢力が出ることも想定される。同大統領の力を維持するのに、日韓共同宣言の改定が役立つかもしれない。さらに、「もしトラ」をにらんで、日韓が協力を強める可能性も考えられる。韓国現代政治に詳しい、木宮正史・東京大学教授に聞いた。 【関連画像】木宮正史(きみや・ただし)東京大学教授。専門は朝鮮半島地域研究、韓国政治外交論。1960年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科の博士課程単位取得退学。韓国高麗大学大学院政治外交学科の博士課程修了(政治学博士)。 (聞き手:森 永輔) 4月10日に韓国で総選挙が行われ、与党・国民の力の議席は108議席にとどまりました。ただし、同党はもともと114議席しか持たない少数与党(総議席数は300)。なので、議会運営の困難さがこれまで以上に増すことはないのでは。 総議席の3分の1を割り込めば、困難さが増したでしょう。大統領の弾劾が可能になったり、大統領が拒否権を行使した法案を再可決することができるようになったりします。しかし、そのような事態は回避することができました。 木宮正史・東京大学教授(以下、木宮氏):確かに少数与党であることは変わりません。けれども、与党としての選挙であることを鑑みれば惨敗です。尹大統領の求心力が落ちるのは否めないでしょう。 同大統領が、少数与党であるにもかかわらず、これまで自身の政策を押し通すことができたのは「大統領選に勝利した」という大義名分があったからです。今回の選挙までの議会における勢力図は、前回総選挙が行われた2020年時点の民意を表すもの。それに対して、自身が22年の大統領選に勝利したのはより新しい民意だ、と位置づけてきました。この理屈が通らなくなります。 ●高級バッグめぐり、大統領夫人の議会招致も 議席を増やした野党からの攻撃が激しくなるだけでなく、身内である与党との関係も一層ぎくしゃくしかねません。 例えば、今回の選挙を仕切った韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長などは「自分は精いっぱいできることをした。それでも敗北したのは尹大統領があまりに人気がないからだ。非は尹大統領にある」と思っているでしょう。 これに対して尹大統領は「与党の選挙の進め方に問題があった」と考えています。与党との付き合い方の機微が分かっていない面があります。同氏はもともと政治家ではなく検察官でしたから。与党の大統領候補になれたのは、運よく、有力な候補が他にいなかったからです。 与党との関係悪化はどのような事態を招く恐れがありますか。 木宮氏:金建希(キム・ゴンヒ)夫人が在米韓国人の牧師からブランドバッグを受け取ったことが問題視されています。野党は、議会で夫人を喚問するよう要求してきましたが、与党がはねつけていました。与党内で造反する者が出て、こうした要求が通るようになるかもしれません。