【社説】車の認証不正 ルール軽視の体質改めよ
安全より効率を優先する風土が自動車業界にはびこっているのではないか。認証制度に関する相次ぐ不正は日本車の信頼を揺るがしかねない。業界全体の問題と受け止め、法令順守を徹底すべきだ。 自動車の大量生産に必要な「型式指定」の認証申請で、新たにトヨタ自動車など5社で不正が行われていたことが明らかになった。不正の対象は38車種で、重複を除き500万台を超える。 これらの車は法規の基準をクリアし、安全性に問題はないと説明する。そうだとしても、不正は自動車の認証制度の根幹を揺るがす行為で、利用者や社会に対する裏切りである。トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社に猛省を求めたい。 国土交通省はトヨタ、マツダ、ヤマハが生産中の6車種の出荷停止を命じた。各社を立ち入り検査し、行政処分を検討する。 出荷停止にはトヨタの「ヤリスクロス」など人気車も含まれる。トヨタは対象車種を生産する東北の工場の2ラインを停止する。その影響は甚大だ。生産停止が長引けば、国内総生産(GDP)が下振れる可能性もある。 トヨタは生産停止で部品メーカーなど取引先の千社以上に影響が及ぶとして、補償を含む対応を表明した。 裾野が広いのが自動車産業の特徴だ。下請けや孫請け、販売店などに深刻な打撃が及ばないように、国はメーカーに指示してもらいたい。 自動車業界では、数年前から認証不正の発覚が続く。これまで「不正はない」としていた最大手のトヨタやホンダで不正が見つかったことは重大だ。自浄能力に疑問を持たざるを得ない。 今回の5社の不正は、国交省が1月末以降に自動車メーカーや装置メーカーなど85社に対し、不正の有無の調査を求めたことで判明した。この調査がなければ不正は見逃されたかもしれない。 中でも日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機とグループ内で認証不正が相次ぐトヨタは深刻だ。 1月に記者会見した豊田章男会長は、グループ内の他の不正は「私が知っている限りない」と断言した。ところが2014年以降、トヨタ本体の7車種で認証不正が行われていたことが発覚した。 歩行者保護試験や衝突時の乗員保護試験は、より厳しい開発時の試験データを認証に使っていた。 認証制度は国によって異なり、開発の最終段階である認証部門の負担になっているという。豊田氏は3日の記者会見で「このタイミングで私が言うべきことではないが」と再三述べ、認証制度の見直しの必要性を示唆した。それが妥当であっても、ルールを軽視した不正は許されない。 認証制度に問題があれば、まずルールを守った上で、業界全体として改善に取り組むのが筋だ。
西日本新聞