豪雪地、わら人形かつぐ〝奇祭〟 「やめようか」悩んでも続ける理由 「みんな〝お迎え〟が近いから」
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】わら人形をかつぎ、雪山を登る…「白木野人形送り」 願うのは無病息災
江戸時代、疫病封じの祈願が始まり
豪雪地帯として知られる岩手県西和賀町の白木野地区で、奇祭として伝わる伝統行事「白木野人形送り」が行われた。 わら人形に疫病神を背負わせて、集落のほとりの山の木に結わえつけ、無病息災を祈る習わしで、江戸時代に疫病を封じるために祈願したことが始まりとされる。 その日は朝から雪に埋もれそうな地域の公民館に住民が集まり、2時間ほどかけて高さ約1メートルのサムライ姿のわら人形を作った。
やめたくてもやめられなくて…
地域の公民館長の中島正行さんが教えてくれた。 「江戸時代までは地域一帯で行われていたらしいのですが、近代になってほかの集落はどこも取りやめてしまったようなのです。白木野集落もそのとき一度辞めたようなのですが、集落内でスペイン風邪が流行したため、行事を復活させたと聞いています」 参加者の一人が笑いながら口を挟んだ。 「わら人形を作れる人も年々少なくなってきてね。みんな年だし、もうやめようか、という声がいつも出るんだけれども、神様がどこかで見ているかもしれないでしょ。みんな『お迎え』が近いからね。やめたくても、やめられなくて。でも伝統って案外、そういうものなんじゃないかしら」 できたわら人形を担ぎ上げ、ほら貝や太鼓を鳴らして集落を練り歩く。 雪に足を取られながらもエッチラオッチラと雪山を登り、高台の一本に人形をくくりつけた。 疫病を背負ってくれている人形に向かってみんなで拝む。 下界では新型コロナウイルスが猛威を振るっている。「コロナを退散してください、孫に会わせてください」と願う。
子孫繁栄の意味もあったかも…
取材中、ずっと気になっていることがあった。木に縛り付けられたわら人形は男性器がやたらと大きい。 「昔は子孫繁栄の意味もあったのかもしれないけれど……、年々大きくなっているような気がしないでもない」 年配の男性が照れて笑った。 「やっぱり男のミエなのかなあ」 明るい笑い声が木霊して、周囲の木からどっさと雪が落ちてきた。 (2022年1月取材) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>