『怪獣8号』福西勝也×瀬戸麻沙美×加藤渉が考える、“夢と年齢”との向き合い方
夢を追うのに、スタートの年齢は関係ない?
ーー『怪獣8号』では「夢と年齢」が大きなテーマとして描かれています。声優になるまでのこれまでを振り返って、「夢と年齢」について考えたことはありますか? 福西:これはぜひ先輩から……(瀬戸を見ながら)。 瀬戸:じゃあ、私から(笑)。私がデビューした頃は、高校生や学生時代から活躍している声優さんが出始めていたので、「できるなら早めに挑戦した方がいいのかな?」と思っていました。お金のことや住んでいる場所など、さまざまな方がいると思うのであくまで当時の私の場合に限ってのことですが、「この業界は若いうちに足を踏み入れた方が有利かもしれない」という直感はありました。若くしてデビューしたから必ず成功するというわけでもないですし、結局のところ、スタートの年齢は関係ないとも思います。 ーーデビュー当時の自分を振り返ってみて、今感じることはありますか? 瀬戸:当時、マネージャーから「初心者マークのうちになんでもチャレンジしておくといい」と言われていたんです。今思うと、当時は先輩声優さんへの知識が浅かったこともあって、若さゆえの“恐れを知らない勇気”があった気がしますね。年齢を重ねて、出会う方が増えた今の方が恐縮してしまう瞬間もあるので。そういう意味でもやりたいことが決まっているなら、早い方がいいのかもしれません。 加藤:僕も瀬戸さんに近くて、「若ければ若い方が」という考えはありました。運よく自分もその環境を与えられていたので、高校生の時から声優になることを目指していました。でも、その時の僕は、前向きに夢を追うよりもっとマイナス方面に積極性が働いていたんです。 ーーどういうことでしょうか? 加藤:簡単にいえば、「やるだけやって、早いうちに諦められるんだったらいいかな」という感じです。結局、諦められずに今に至るわけですが……(笑)。特に10代の時って「自分にできることってなんだろう」ってみんな考えると思うんです。そこを原点に、いろんな経験をした今、改めて「自分にはこの仕事しかないのかな」という感覚があります。 福西:私はハタチを過ぎてからデビューしたので、2人とは少し違う立場ですが……。やはり若い頃にチャンスがほしかったという思いはありました。ただ、私は家の事情で小中学生の頃からお芝居がしたくてもできなかったんです。でも、その鬱憤を友達とごっこ遊びで発散していました。それこそ、渉くんが正式にレノ役になる前に友達とやっていたやつみたいな。誰かに評価されるわけではないので、ただただ楽しいだけの気持ちでお芝居ができていた時期が長かったんです。 ーー身近なところに「演技」があったんですね。 福西:そうですね。もし突然プロのお仕事をするとなったら、きっと怖いことだらけだったと思います。結構心配性なので(笑)。でも、先に純粋に楽しむ時期があったからこそ、仕事でもそのスタンスでいられるんだと思います。だからきっと、どんな年齢であっても“楽しむための土台作り”を惜しまないことが大切なんじゃないですかね。ちょっと元気がない時でも頑張ってみんなとコミュニケーションをとったり、楽しむために必要なお金を稼いだり。「夢を叶えるからお芝居の勉強しかしない!」って他のことをおろそかにするんじゃなくて、楽しむために嫌なことも頑張るのが大事なのかもしれない。 ーー声優という仕事では、オーディションに受かって役を得るというサイクルがありますよね。もし永遠に落ち続けたらどうしようとか、希望の役にこの先就けなかったらどうしようという不安はありませんか? 加藤:ありますあります。 福西:ね! さっきも言った通り、カフカ役が決まった時も「これで運を使い果たしたんじゃないか」とか(笑)。でも、そんなことはないと分かっていても、いたずらな不安は一生付きまとうものだと思います。 瀬戸:本当にこればっかりは……。でも私は役が自分に決まらなくても、「作品は始まっていく」という現実を受け止めるようにしています。自分の力不足だと思わず、今できることを精一杯やった結果だから、これが今の自分なんだと納得するんです。向上心がないと思われるかもしれませんが(笑)。それでも精一杯やったなら、それは縁がなかっただけなんですよね。 ーーカフカのように「夢と年齢」に悩んでいる方にメッセージをお願いします。 福西:結局のところ自分にしか歩めない人生があるわけで、私の場合、学生時代ではなく成人してからデビューしたことにも意味があると思っています。もっと早くから業界に足を踏み入れた、並行世界の自分に思いを馳せることもありますが……それでも「今はこれでよかった」と自信を持って言えます。他の職業でもそうですし、私と同じように学生時代やもっと若い頃に声優としてデビューしたかった人がいたとしても、いつか「今の道を歩んでいてよかった」って思える日が来るはずです。
すなくじら