LVMH日本法人の元取締役、伊ブランドへの転職断り東京から単身飛び込んだのは「靴下の一大生産地」
ココビズ・センター長 小杉一人さん 55
本当はイタリアの高級ブランド企業に転職が決まっていた。転職サイトから自分の登録情報を消そうとして、今の仕事の求人を見つけた。 20年以上、高級ブランド業界に身を置いてきた。プラダに始まり、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループ日本法人の取締役にも。ソニアリキエルジャポン社長だった2019年、仏本社が日本撤退を決め、転職先を探していた頃だった。
きっかけは、娘の姿
見つけた求人は、奈良県広陵町と大和高田市がつくる「広陵高田ビジネスサポートセンター・ココビズ」の初代センター長。中小企業の経営者らの相談に応じて助言する、地域活性化を目指す業務だ。 きっかけは、娘が高校時代、貧困問題や政治に興味を抱き、勉強する姿を見たことだ。
「娘とこうしたことを話し合える、言葉や考え方を持たない自分に気づいた。派手な生活をして、人生を終えていいのか。何かしら社会に貢献できることをやった方がいいのでは、と」 イタリアのブランドを断り、公募に応じて20年12月、センター長に就任した。
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東京から単身飛び込んだココビズ。華麗な経歴に興味を持つ中小企業の経営者が列を作った。新規商品を開発したい。販路拡大を図りたい。相談が相次いだ。 1日平均4、5社と、1回1時間の真剣勝負。常に売り上げ増を求められる外資系で鍛えた発想力は、経営者らに大きな刺激を与えた。相談は常に予約待ちだった。 一大生産地である靴下産業はもちろん、美容室や飲食店、革製品製造など、あらゆる業種の経営者らが訪れた。4年間で368社から計3800件の相談があり、一緒に解決策を探った。
高校生が作り、売った
市立高田商業高の生徒が靴下メーカーと組んだプロジェクトを、よく覚えている。 土に埋めれば3年で分解される素材を使い、生徒がSDGsの17目標のそれぞれの色の靴下を作るというアイデアを出した。その「SDGsソックス」を近鉄、阪神両百貨店で販売した。 「高校生が作り、売った。娘のような世代の人と地元産業に深く触れ、地域経済を考えたのは感慨深かった」。あの頃の娘に今なら声をかけてやれる。そう思えた。