月給11万円、貯金ゼロ、「体を売る」という選択肢はない…台湾の貧困女性が生きるために始めた「副業」の正体
台湾で若者の貧困が問題になっている。フリーライターの神田桂一さんは「物価高騰の影響で若年層のホームレスをよく見るようになった。台湾は売春が原則違法なので、女性は代わりに日本ではなじみのない『ある副業』に手を出し始めた」という――。 【画像】ライバーの募集がずらりと並ぶウェブサイト『104人力銀行』 ■台北駅周辺に急増する「若いホームレス」 「近年、台北で若いホームレスが急増しています」 そう語るのは、映画化もされた小説『做工的人』(ブルーカラー)など、労働問題を中心とした著作のある台湾人ジャーナリスト・林立青氏だ。自ら「友洗社創」という企業を設立し、ホームレス、更生者、非行少年らに清掃の仕事を提供する活動も行っている。 林氏によると、若年化の傾向はコロナ禍から始まり、収束したいまもなお続いているという。 「コロナで感染拡大を防ぐために外出が制限され、その影響で日雇いや不安定な仕事で生計を立てていた低技術層の若者が多く街頭に出ざるを得なくなったのです。コロナ禍の後も、偽ショッピングサイトで買い物をしてオンライン詐欺に巻き込まれるなどして、経済的に困窮した結果、路上生活に追い込まれる人も増えました」 筆者も実際に台北駅周辺などを歩いてみた。確かにこれまでは50~70代が中心だったのが、明らかに若者と思えるホームレスを見るようになった。 台北でホームレスが集まる場所は主に台北駅の南二門外広場と万華区にある龍山寺前の艋舺公園だ。それぞれ100人程度が屋根のある高架橋下などに寝泊まりし、日中は仕事を探しに出かけるという。彼らは夜になるとシートが敷いてある自分の居場所に戻り、思い思いに静かに眠る。若者と思しきホームレスは、無精髭に疲れた表情をして段ボールに横たわっていた。
■「半導体バブル」は一部だけ しかし、台北の若者の困窮の原因はそれだけではない。コロナ禍で弱った若者の懐に、昨今の物価の上昇や家賃の高さが追い打ちをかけているという。 台北から地下鉄で40分ほど離れた淡水区に2人とルームシェアをして暮らす20代エンジニアの呉さんは語る。 「台北の一人暮らしのワンルームは、約1万7500~2万2000台湾元(8万~10万円)くらいします。台湾の大卒初任給の平均は3万3000元(約15万円)ほどですから、台湾の若者の給料では手が出ません。ほとんどの若者が親からの支援や、カップル同士での同棲、ときには友達3人でルームシェアをしたりしてなんとかしています」 確かに、台湾の大卒初任給の平均は10年前の約2万7000元から比べると2割ほど上昇している。だが、それは半導体大手のTSMCなど一部の大企業や高給な業界が平均を押し上げている結果だとも言われており、大多数の若者は本業の給料だけでは生活していけない。 「私のように台北ではなく、郊外の新北市や淡水に住むという手もあります。それだと家賃が1万元ほどに抑えられますから」(呉さん) ■台湾版「タイミー」で副業をする若者たち また、台湾の若者の間では副業が一般的だ。企業でも副業を認めているところがほとんどだ。呉さんにも、本業のかたわらコンビニで副業したりしている知り合いがいるという。 「台湾では、日本でいう『タイミー』のような『小雞上工』という日雇い労働アプリが普及しており、日払いの臨時仕事や低技術の仕事を簡単に探せます。このアプリはホームレスや経済的に困窮している人々にも利用されています。ただし、専門職に適した仕事はほとんど見つかりません」(林氏) 女性はサービス業や受付の仕事が多く、レストラン、映画館、サービスカウンターが週末に臨時スタッフを募集するケースが増えているそうだ。男性の場合は、重労働系の仕事が多く、荷物の運搬、工事現場や工場での作業、洗車店やバイク修理店などの募集が多い。 台湾社会では、こうした複数の職業を経験していることをポジティブに捉える向きもある。そういう働き方は、「スラッシュキャリア(複数の職業を掛け持つ)」と呼ばれているが、実際には正社員の仕事に成長性や安定性がないため、不足分を補うためにアルバイトをせざるを得ない、というのが現状のようだ。