tofubeatsら4組出演の『DOUBLE:』ライブレポ バーチャルとフィジカルが交差した一夜
1月27日、Activ8主催のもと電音部・港白金女学院、Daoko、長瀬有花、tofubeatsの4組によるライブイベント『DOUBLE:』が池袋harevutaiにて開催された。 【画像】電音部・港白金女学院、Daoko、長瀬有花、tofubeatsの4組が出演 ライブギャラリー このイベントは「リアルとバーチャルの世界が交差する新たな音楽体験」を掲げており、実際この日の内容はその言葉に劣ることない内容となった。本稿では、さまざまなテクノロジー/手法/思考が混ざりあった一夜を詳らかにしようと思う。 ライブレポートにうつる前に、今回の出演者4組を見た時に、親和性や共通点を見いだしたひとは多いはず。彼ら/彼女らを結ぶのは、ズバリ“インターネットカルチャーをルーツに持つ面々である”という点だ。 Daokoとtofubeatsにはいくつかの共通点があり、ともにニコニコ動画に動画を投稿したり、その後インディーレーベルの「LOW HIGH WHO? PRODUCTION」に加入して活動していたりすることが挙げられる。加入していた時期はそれぞれ別だが、実は先輩・後輩という関係でもあるのだ。 その後同プロダクションから離れた2人だが、もう一つの外せない共通点といえば、楽曲「水星」であろう。tofubeatsとオノマトペ大臣によって2011年にリリースされたこの曲を、Daokoはメジャーデビューを飾るファーストシングルとして取り上げたのだ。 両者ともにニコニコ動画/ネットレーベルと関わりがあり、アニメやマンガといったサブカルチャーにも強い2人。当然、その嗜好性にあったコラボレーションにも恵まれる。さまざまなタイアップをこなすなかで、クラブミュージックを得意とするtofubeatsはクラブをテーマにした電音部に楽曲「MUSIC IS MAGIC」を提供している。 さらにもう一つ言えば、tofubeatsとDaokoの2人は、ネットカルチャーの中で活動しながら「シンガーソングライター/アーティストとしてどのように表現をするか」というビジョンやスタンスを提示したという点でも共通している。 自身で楽曲制作する/アートやデザインを制作するなどのクリエイティヴな表現まで見据えた活動を、彼らは2010年代中頃から現在まで続けている。現在はネット発のクリエイターやミュージシャンが数多くおり、この日出演した長瀬有花もそういった方向性にマッチするひとりだ。 アニメ、マンガ、アート、そして音楽。さまざまなカルチャーが多重かつ過剰にあつまるネットの世界において、この日出演した4組は世代・時期・スタート地点こそバラバラかもしれない。直接的なコラボは少なくとも、そのルーツや活動スタンス、嗜好する音楽性といった点で近似するのだ。 ■トップバッターは電音部・港白金女学院の黒鉄たま、白金煌 ライブ当日、19時半からスタートしたのは電音部・港白金女学院のアクトだ。照明が落ち、彼女らの登場を告げるオープニング映像が流れる。続けて、黒鉄たまと白金煌が上手からスッと歩いて登場してきた。 この日のステージ前方には、舞台の縦横を埋めるような見慣れない形状のLEDディスプレイが設置されていた。網戸のような形状をしたディスプレイを前にした観客の多くは、「ここに電音部や長瀬のようなバーチャルアーティストが登場する」ということは当然察していたわけだが、始まってみると異様なことに気付かされる。 LEDパネルに映し出された黒鉄・白金の2人は、会場から見ると想像以上に体の厚みがあり、衣装の揺れや髪のなびき一つひとつから重力の存在を感じる。人が服を着て動いたときの微妙な揺れや、前後で入れ替わる際の奥行きをも美麗に表現していた。 なにより驚いたのは、彼女らの後ろ側、つまりステージ後方の空間がすっかり透けてみえること。ステージ後方には設置された液晶ディスプレイからは背景となる映像が流れ、前面のLEDディスプレイからはエフェクト映像が流れる仕組みになっていた。 つまり、ステージ前後で2つのエフェクト/背景映像によって彩られる“二重の映像表現”、そのなかで電音部や長瀬らバーチャルアーティストはライブをしていたのだ。なお、終演後に聞いた話によれば、この日使われたLEDディスプレイはこのライブで初めて使われたものだという。 電音部のパフォーマンスに話を戻そう。1曲目に「探す獣」を白金と黒鉄が歌った後、「MUSIC IS MAGIC」「いただきバベル」をそれぞれソロで歌ったわけだが、ステージ後方のディスプレイからはきらびやかな光線や光の粒が、歌っている2人の近くにパッと歌詞が飛び出すような演出がなされた。まるでYouTubeで見る3Dライブのようだと感じたのは、筆者だけではないだろう。 最後に歌ったのは、12月23日にリリースしたばかりの「Resist」。白金と黒鉄2人での初歌唱曲を、この日の舞台で初披露し、ファンを大いに盛り上げてステージを後にした。 ■“いまの自分の姿”を観客に向けてバチっと見せつけたDaoko 2番手に登場したのはDaokoだ。電音部のエレクトロを主体としたサウンドを受け継ぐように、「御伽の街」「MAD」「spoopy」とクラブサウンドを明確に打ち出した楽曲を次々に披露していく。 黒髪の姫カットで整えたヘアスタイル、体の線を隠すようなオーバーサイズの白い衣装を身にまとい、体を大きく揺らし、時には上体を折って声を会場へと広げていく。レイヴ感のある映像が前後で流れ、独特な立体感を感じさせるVJも素晴らしい。 Daokoといえば細いウィスパー気味の歌声が多くのリスナーに記憶されているかもしれない。しかし、この日彼女が披露した生き生きとしたパフォーマンスをみて、イメージと大きなギャップを感じた観客も多いかも知れない。 現在は自主レーベル・てふてふを設立・活動しており、自身の嗜好性をダイレクトに表現できる立ち位置にいる彼女はこの日、“いまの自分の姿”を観客に向けてバチっと見せつけていた。 つづく「月の花」では華やかな光と花びらが、「Allure of the Dark」では仄暗い森林のなかに黒い服の少女が浮かび上がるなど、それぞれの楽曲に見合った映像と演出でDaokoのパフォーマンスを彩る。前者では笑顔をにじませながら、後者ではシリアスな表情でメロディを紡いでいく姿が印象的だった。 大きな歓声が上がったのは、彼女の存在を知らしめたヒット曲「打上花火」、そしてtofubeatsへのリスペクトを込めた「水星」だった。観客も「待ってました!」とばかりに手を振り、体を揺らしながら音楽に浸る。 クラブサウンドをメインにしたところから、センチメンタルを誘う楽曲へと繋いだこの日のセットリストは、まさに“いまのDaoko”を打ち出したステージだった。 ■バーチャルとフィジカルを織り交ぜ、長瀬有花は増殖する 3番手として登場した長瀬有花は、3Dアニメルックなバーチャル性と彼女の身体そのものによるフィジカル性が織り混ざった内容となった。 真っ黒な背景となったLEDパネルに登場した長瀬が1曲目に歌い出したのは「fake news」だ。ラジオやテレビの番組アナウンサーが告げるそう遠くない未来の話、近未来とインターネットを想起させる1曲から、彼女のアクトは始まった。 2曲目「アフターユ」のヒップホップライクなグルーヴに観客が揺れ、ビートとギターの音で終えていくアウトロへ差し掛かる。長瀬の姿が徐々に白んでいき、それに合わせて長瀬の周囲も光に埋め尽くされる。 そして次の瞬間、3曲目「近く、遠く」がスタートすると目の前にあらわれたのは3Dルックな長瀬ではなく、“長瀬本人”が登場したのだ。 3Dルックの姿から、フィジカルの姿へ。自らのビジュアルを一気に変化させるこの展開に、会場が大いに盛り上がったのはいうまでもない。目元をゴーグルで隠し、白地の透けた衣装で着飾った彼女は、ステージ中央で白い照明に当てられて歌っていく。 「ここだけのとっておきの演出をいれていきますので、最後まで楽しんでいってほしいです」 とろんとしたいつもの口調でMCをする長瀬。直後の曲から、長瀬本人と3D長瀬の2人が同じステージに立ち、「駆ける、止まる」「宇宙遊泳」「ブランクルームは夢の中」とどんどん楽曲を歌っていく。長瀬本人はLEDパネルの前まで進み、3Dの自分と向かい合ったり、踊ったりと動きをシンクロさせていく。 ときにはゆったりと歌う長瀬の後ろで、3D長瀬が6人ほどに増え、好き勝手に動き回ったりもする。そんなフワフワとした空気感がなんとも彼女らしい。 ところで、おもわず“どんどん”と記してしまったが、彼女のステージでは曲の合間がほとんどなく、楽曲が最後を迎えるとDJのようにシームレスに次の曲へと繋がっていくのだ。カラフルな照明が会場中を照らしながら、とめどなく音楽が流れるムードは、次に待ち構えるtofubeatsに合わせているかのようであった。 ■遊び心あるDJに実験的なVJをかけ合わせたtofubeatsのアクト 長瀬がステージを終え、続けて現れたtofubeatsだが、会場をリラックスさせるように短く挨拶のMCをすると、いつも通りのDJプレイからスタートした。 「陰謀論」「VIBRATION」「I CAN FEEL IT」「STAKEHOLDER」「CAND\\\LAND」とかけていくが、ハウス/2step/エレクトロ/ジャージークラブのサウンドやリズムパターンが絶妙にミックスされ、遊び心あるDJプレイでフロアを盛り上げていく。 だが、この日のステージで一味違ったのは、やはりステージ演出である。tofubeatsを左右斜めから捉えた映像がLEDパネルに流れると、そのままtofubeatsをベースにして様々なタッチの絵が流れていく。線画を強調したもの、アメコミ風なもの、そもそもDJをしている姿ではない絵に変わっていったりと、変幻自在にモーフィングしていた。 とはいえあまりにもパターンが多すぎるし、非常にランダム性のある映像が流れているなと思っていたが、終演後に調べたところ、この映像はAIを使ってリアルタイムで自動生成されていたものだという。 DJセットのライブは、さまざまなサウンドやリズムパターンをうまく組み合わせその日その瞬間のムードに合わせて、“音楽を作っていく”ものである。事前に決まりきった映像を合わせても、最初から最後までピタリとハマってくれるかはわからない。 そこでAIの力を借り、リアルタイムにアートを出力している様子をそのままVJパフォーマンスに用いる。“DJ”のあり方・変化するフロアの空気も踏襲するアートの在り方ともいえよう。 tofubeatsのアクトに話を戻すと、自身がタイアップ楽曲として提供した「EMOTION」や中村佳穂との楽曲「REFLECTION」と繋げ、「ちょっと歌って見ようと思います」と一言つぶやき、「自由」を歌う。 そのままラストにかけたのは、Daokoへのアンサーなのでは、とすら思ってしまう本家「水星」である。ちなみに、ここでも映像にはtofubeatsにそっくりな「AI tofubeats」の映像が流れていた。本人は「誰やこいつ!」と思わずツッコんで笑いを誘っていたが、ともあれ本日2度目の「水星」はこのイベントを美しく締めくくってくれたのだった。 電音部がバーチャルを、Daokoがフィジカルを、長瀬がそれらをかけあわせ、tofubeatsはクラブサウンドで彼らを繋ぎ、VJ演出がそれを彩る。この日見せてくれた多彩な手法・在り方がどのように進化・成長を見せていくのか、そんな萌芽や期待にも満ちた一夜だったといえよう。
取材・文=草野虹、写真=Kenichi Inagaki