「諦めない力」センバツで謳歌した石巻工元主将 再び目指す甲子園
諦めない力でもう一度、甲子園に――。2012年の第84回選抜高校野球大会に、その1年前に発生した東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市から出場した石巻工の当時の主将で、選手宣誓で「見せましょう、日本の底力、絆を」と呼び掛けて話題を呼んだ阿部翔人さん(29)が、人生2回目となる秋の東北大会の舞台に立った。12年前は選手として、今年は仙台一(宮城)の野球部長として。仙台一は初戦で敗れたが、阿部さんは「この選手たちを必ず聖地へ連れて行く」と決意を新たにした。 21世紀枠で出場した11年前のセンバツで、阿部さんは選手宣誓を引き当て、「答えのない悲しみを受け入れることは、苦しくてつらいことです」と被災地の苦しみを大観衆に伝えた。石巻工ナインは「あきらめない街・石巻‼ その力に俺たちはなる‼」の横断幕を掲げて初戦に臨み、強豪・神村学園(鹿児島)相手に、一時は4点差を引っ繰り返した熱戦を演じた。 阿部さんは日体大に進んで教員免許を取得。大学卒業後は宮城県の公立校で講師として勤めた後、21年に教諭に採用された。仙台一に配属され、22年からは野球部の部長を務めている。 「甲子園に出場すると、人生が変わるよ」。阿部さんは野球部のミーティングで時折、自身の経験を選手たちに伝える。藤原啓三塁手(2年)は「甲子園の話を聞く度、『自分たちも絶対に行きたい』と思うようになり、練習にも身が入るようになった」と話す。 今秋の東北大会では、仙台一の選手たちが「諦めない力」を十分に発揮した。甲子園に春夏計22回出場の八戸学院光星(青森)を相手に健闘。前半に小刻みに5点を奪われたが、七回に意地の2点を挙げた。ベンチからは試合終了の瞬間まで「サヨナラ行くぞ!」「甲子園に行くぞ!」という掛け声が絶えなかった。 仙台一の小川郁夢主将(2年)は日々、阿部さんら指導陣から「試合では、最後まで諦めないことが大事」とたたき込まれているといい、「光星戦でもチームの誰一人、気持ちで負けず、最後まで勝ちを諦めなかった」と胸を張った。 11年の東北大会は、今年と同じく秋田での開催だった。しかも、石巻工の相手はくしくも光星学院(現・八戸学院光星)だった。石巻工は敗れはしたものの、1点を奪うことはできた。当時の石巻工の監督で、現在は宮城県高野連の理事長を務める松本嘉次さん(56)は、今年の試合にも駆け付けており「仙台一の戦いぶりは堂々としていた。翔人はやっぱり持っている」と感慨深げだった。 阿部さんは「甲子園は、たくさんの人に応援してもらえる、他にはない特別な場所。仙台一の選手たちにも甲子園の土を踏ませてやりたい」と話し、指導に熱を入れる日々を送っている。【竹田直人】