藤原道長の「御堂関白記」はなぜ達筆ではないのか?「光る君へ」書道指導・根本知が解釈
なお、根本は書道指導のみならず作中に登場する数々の書物の書を手掛けているが、なかでも心を砕いているのが「書の達人」と言われる藤原行成(渡辺大知)。とりわけ一条天皇(塩野瑛久)に献上した「古今和歌集」の写しは「作り物の中で一番緊張しました」とのこと。 「助監督からも言われるんです。“なんで行成だけこんなに作るのが遅いんですか?”って。僕は書くのが速い方ですが、“ごめんなさい、行成に集中したいので今日は他の注文はお受けできません”っていうぐらい真剣に臨む。行成は僕にとっては“書の神様”なので。行成に関しては、識者が行成の字と鑑定した書物『伝藤原行成』の中の『関戸本古今集』を軸に作っていきました。渡辺大知さんは書道未経験とのことですが、驚くほど達筆な方なのでありがたかったです」
また、藤原公任(町田啓太)に関しては「稿本北山抄 伝藤原公任」を参考に。「町田さんはそこまで書くシーンがないので、漢詩のシーンなどでは私が手元をやらせていただきました。公任は『稿本北山抄』にメモ字が残っているんですけど、やや雑に書かれていることもあってあまり美しくない。なんですけど町田さんご本人が麗しく、指導しながら彼を見て公任らしさとは何かなと考えたときにイメージが合うと思ったのが『太田切 伝藤原公任」。その中にある細身の品のいい漢字をもとに書きました」
一方、劇中で主に“愚痴”として日記「小右記」を綴っているのが秋山竜次演じる藤原実資。秋山に関しても柄本と同様、本人が執筆しているという。
「秋山さんは僕が手元の吹替えができないぐらいプリプリの手なので、監督陣ともお話しして“本人でいきましょう”というお話になったんですけど、秋山さんは早書きなんですよ。またご本人の字とも近かったので、お手本などは提示させていただいていますが指導通りにというより“自分らしく書いてほしい”と。実際に書けば自然に実資になる感じでした。清少納言を演じるファーストサマーウイカさんに関しては書道のご経験があり、僕が右上がりの文字をイメージしていたところ、偶然ウイカさんも右上がりの文字を書かれていて。だから今回はみなさん奇跡的なキャスティングなんですよね。制作統括の内田(ゆき)さんに“字で配役されたんですか?”とお聞きしたいぐらいです(笑)」と不思議な巡り合わせも指導のモチベーションになっているようだ。(編集部・石井百合子)