藤原道長の「御堂関白記」はなぜ達筆ではないのか?「光る君へ」書道指導・根本知が解釈
吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)。本作のもう一つの主役ともいえるのが書。「源氏物語」を執筆する紫式部をはじめ清少納言、藤原行成ら名だたる作家、歌人の書のシーンが注目を浴びているが、中でも異彩を放っているのが藤原道長(柄本佑)。道長の日記「御堂関白記」などでは達筆とは言えない独特な書風だが、その理由についてドラマで題字揮毫(きごう)および書道指導を務める根本知が解釈を語った。 柄本佑、渡辺大知らキャストの書道指導【画像】 道長の書に関しては紫式部と異なり、「御堂関白記」という実物が残されているため同書物に基づいてつくっていったという根本。それでも問題があり、「『御堂関白記』は道長が左大臣になってからしたためたものなので、少年時代(三郎)はどうしようかと。そこで、『御堂関白記』ではいわゆる美しい字形ではないので、演出の方々ともお話しして下手な設定で行こうと。もともと道長の文字と演じる柄本佑さんの字が近かったこともあって、すんなりいきました(笑)。今日もお稽古したのですが、いまや道長の字を完コピしてます。これからも『御堂関白記』のシーンがたくさん出てきますけど、びっくりしますよ。もう、“めっちゃ『御堂関白記』!”ってなります(笑)。ただ、ご本人は“稽古してるのにいっこうに字がうまくならないよ”とボヤいていらっしゃいました。道長の字は書けるようになっているけど、美文字は書けるようにならないという不思議なことになってます(笑)」
「書は人なり」とも言われるが、道長の書が達筆ではない理由を根本はこう分析する。 「道長に関しては、経筒(※経典を納める器)もこの先に出てきます。実物も残っているんですけど、そこに書かれた字は下手ではないんです。 あと、公の文書や写経も実にうまい。にもかかわらず、なぜ『御堂関白記』はヘタなのかというと、それは道長が誰にも何も気を遣う必要がないぐらい、ありのままで生きられたからなのではないかと思うんです。字がうまくないと出世できない、うまくなってモテたいとか気を揉む必要がなく、自然体で堂々とされていたんだと思います。一方で、仏教に関わるものに関しても美しい字で書かれているのできっと、敬虔で真面目な方なんだろうと。出るとこに出たらしっかりする人なんだろうなという大器のような感じもあって、柄本さんもまさにそんな方です。かなりの哲学も持っていらっしゃるけど、誰に対しても謙虚ですし、でもリハーサルなどでは“こうしたらいいと思うんだよね”と的を射た意見をおっしゃられていて、本当に道長だなって思います」