加害者だけでなく被害者遺族も、消せない”デジタルタトゥー” 社会はどう対応すべきか
事件の情報がネット上に残り続け、社会復帰などに影響を与える状況が顕在化しつつある。近年は、加害者だけでなく被害者遺族からもネット上の情報を削除するよう求める裁判が起こされるケースも生まれている。こうした「デジタルタトゥー」の問題にどう対処すればいいのか。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介) 【動画】64年ぶりに刑務所を出た91歳の元殺人犯
●デジタルタトゥー、二重の罰に
ネット空間に流れた情報は拡散しやすく、検索で簡単に見つけ出すことができる。 便利な反面、一度でも過ちを犯したことがある人にとっては「デジタルタトゥー」として残り続け、完全に消し去ることが難しい。 事件に関する記事について、多くの報道機関はニュースサイトに掲載する日数を限定し、一定期間が過ぎると削除している。 だが、記事を掲示板や個人のブログ、SNSに無断でコピーする人がいるため、元の記事が消えた後もネット上に残り続けるという事態が生じている。 私(記者)がこれまで取材してきた受刑者の中には、「ネットで自分の名前が出てくるか調べてほしい」と頼んできたり、服役中に名前を変えようと塀の中から家庭裁判所に申立書を送ったりする人がいた。 自業自得だと思う人が多いかもしれない。そう片付けるのは簡単だが、デジタルタトゥーが立ち直りを難しくし再び犯罪に向かわせる要因になっているとしたらどうだろうか。彼らはいわば「二重の罰」を受けることになる。
●被害者遺族にも影響「好奇の目に晒されるのは耐え難い」
加害者だけの問題ではなくなりつつある。 今年3月、ある事件で子どもを殺害された親が、亡くなった被害者の名前が載った投稿がSNS上に残り続けていることについてプライバシー権の侵害などとして投稿の削除を求めた裁判で、東京地裁が訴えを退けていたことがわかった。 原告側は裁判で、「不特定多数の好奇の目に晒されるような状況は親にとって耐え難い苦痛である。本件被害者の氏名を現在も公開し続ける社会的必要性や公共性は失われている」などと主張していた。
●司法の判断に変化の兆し
デジタルタトゥーの問題は司法の場にも持ち込まれている。 2022年6月、最高裁はツイッター(現X)に残る過去の逮捕記事の投稿を削除するよう命じる判決を出した。