国立大学による寄付の争奪戦が始まる。「未来への投資」に位置付けへ課題は?
文科省が補助金、体制強化 IR機能、データに基づき経営判断
大学が寄付集めを確約したのは文科省が執行部の体制強化をセットにした補助金を提供しているから。国立大学改革・研究基盤強化推進補助金として各大学の財務担当理事や学長、総長を支える専門チームを構築することになっている。従来の大学の経営企画と異なり、株式会社のようなIR機能を整える。京大は情報ツールを導入して全学の経営資源情報を集約し、データに基づいた経営判断ができるようにする。寄付者や共同研究先企業、卒業生などの外部資金獲得につながる顧客情報は顧客情報管理システム(CRM)で管理する。 5大学に提供される24年度の補助金額は8億9000万円。期間は4年間で24年度分は半年分とされる。25年度以降は増額される可能性もあるが、事業が終わればファンドレイザーの人件費は大学が持つことになる。年間数億円の体制強化予算を原資に、毎年数億から数十億円の寄付を集める仕組みを作る。
日本で文化浸透へ 税制優遇拡大・好事例を共有
課題は日本の寄付文化が脆弱な点だ。限られたパイを国立大学が競って獲得すると、子どもの貧困対策や途上国支援など、寄付に支えられている他の民間非営利団体(NPO)への影響が懸念される。パイを広げるには新しい寄付のカテゴリーを作る必要がある。 日本では寄付は困窮者への救済のイメージが強いが、海外では節税や政治活動として寄付が使われる。本来、寄付の目的は多様だ。大学への寄付は研究開発や人材育成などの未来への投資に当たる。文科省は補助金で大学を競わせるだけでなく、文科省自身も寄付文化を変えるために動く必要がある。 例えば国立科学博物館の標本などのコレクション保全費用を募ったクラウドファンディングは9億円以上を集めた。ただ文科省担当者は「科博は成功したが賛否両論あった」という。文科省が前面に立つとネガティブに働きかねないことを懸念する。政府による予算支援を求める声は少なくなかった。
ふるさと納税活用、自治体にも利点
現在は毎年の税制優遇拡大と大学関係者などを集めた寄付フォーラムで好事例を共有する活動を進めている。注目されているのは、ふるさと納税の活用だ。早稲田大学は東京都新宿区、中央区と連携し、寄付金の最大7割が早大に入る大学応援プロジェクトを展開する。名城大学は名古屋市に働きかけ、市内の国公私立大学や短大など29機関が参画する応援プロジェクトを立ち上げた。大学に7割、自治体は3割が入るため、双方に利点があるという。高級な牛肉やカニなどの特産品のない都市部では有効とみられる。 小さくも多様な形が試みられている。阿部文科相は「大学のファンドレイザーなどの体制整備と経営改革を進めている。税制優遇や好事例の共有など、引き続き寄付金をはじめとする外部資金獲得のための環境醸成に努めていく」という。各大学の取り組みが一つの流れとなり寄付文化が変わるか注視される。