otsumamiが語る活動3年目の変化、宮沢賢治の言葉と描いた「大人は忙しい」の真意
脇道に逸れたり寄り道したような楽曲としての「大人は忙しい」
─ここからは、5月に配信された最新曲「大人は忙しい」についてお話を聞かせてください。この曲はどういうイメージで制作を始めて完成させていったのでしょう? 青葉:それまでのotsumamiってわりと真面目な曲が多かったと思っていて、例えば12カ月連続配信を始めたときは12カ月連続でシングルを切っているみたいな状態だったので、どうしてもリード曲や表題曲みたいな考え方になってしまう。それをやり続けることで幅が狭くなることも自分の中では悩みだったので、そろそろ脇道に逸れたり寄り道したような楽曲があってもいいんじゃないかと。チャラついていたりふざけていたりユルかったり、みたいなところを見せたいなっていうタイミングが今回だったわけです。 ─なるほど。 青葉:曲の作り方としては、今まではまずメロディがあって、そこにアレンジを施していくのが基本的なやり方だったんですけど、今回は完全にトラックから作ろうということで、まずワンコーラス分をうちのチームの人間に作ってもらって。そうすると、いつもの手癖とかそういったところから解放されて、逆に制限もできたりするので、すごく面白かったですよ。しかも、結構わちゃわちゃしたトラックが出てきたので、今まで悶々と抱えていた悩みを解消する機会にもなりましたし。で、その過程でサビのフレーズに〈大人は忙しい〉っていう言葉がハマって。この曲の主人公は子供の延長線にいて、大人の入り口に差し掛かった微妙な年齢感なので、そういうところを描ければちょっと面白いかなっていうことで、じゃあ「大人は忙しい」で行こうと。 ─歌詞には〈金曜日は ねえ 銀河鉄道乗りたい〉や〈連れていってジョバンニ 日曜日は ねえ 山猫軒で食べたい〉と、宮沢賢治にちなんだキーワードが散りばめられたフレーズが用意されています。 青葉:僕は小さい頃から宮沢賢治の作品が好きだったので、歌詞にするならカンパネルラじゃなくてジョバンニのほうにスポットを当てたいとか、日曜日にレストランでメシを食いに行くなら山猫軒を使おうとか、そういうことを考えていて。ただ、ちょっとふざけすぎたのでmikanに怒られる可能性があるかなと思っていたんですけど(笑)。 mikan:そんなことないですよ(笑)。 青葉:実際、「ちょっと今までにないですね」みたいな感じですごく気に入ってくれたので、大成功でした。 mikan:コンセプトや世界観がしっかりしてるから、すごく新鮮で面白いなと一気に惹きつけられました。私も大人だけど大人になりきれないのに、大人としての責任を全うしないといけないみたいな場面がよくあるんですけど、宮沢賢治さんの言葉をまだ完全に理解できていなくて。それがこの曲の主人公と重なることで、大人になりきれていないところを表現できているんじゃないかと思います。 青葉:いつもmikanがレコーディングに入る前、お互いその作品の映像感や世界観を共有するためにいろいろ話し合っていて。今回はmikanと同世代の子を主人公にしていますが、僕はmikanより大人ですけど多分mikanの年齢ぐらいのときの精神性と今の自分が特別変わったなんて少しも思わないんですよね。大人って子供が作った幻想なんじゃないかと思うぐらい、何も変わんないのに、のしかかってくる責任に正直ついていけないことがたくさんある。そういう話をmikanにもしました。 ─その感覚、わかります。自分が子供の頃に見ていた大人と、実際自分がそれくらいの年齢になったときのギャップに戸惑うといいますか。 青葉:ですよね。この歌詞の最初に〈パッ 開く退屈〉ってフレーズがありますけど、これ電車の改札を表現していて。そこから自分の家に帰るまでの道すがら、なんとなくコンビニで缶チューハイでも買っちゃおうかなみたいな。そういう家と会社の行き帰り、あるいは家と駅の往復みたいな、所詮5分ぐらいの距離を冒険している、そんなもんだよなと。そんな話をmikanとしたら、一応理解してくれたようで。一度スッと入ったら、あとは早いんですよ。 mikan:入るまでが長いんですけどね(笑)。同世代に向けての応援ソングという側面もある曲なので、歌うときには同世代の子よりもちょっとだけ目線を上にというか、そういう意識もあって。ちょっとカッコいい女性をイメージした歌い方をしました。