<知的障害者の親の苦悩>「こんな時どうすれば」…強度行動障害を乗り越えるには
行動症状の非薬物的対応
これは、プラダー・ウィリー症候群に限らないが、世界中の精神医学会の診療ガイドラインは、知的障害者の行動障害に対して、おしなべて非薬物的対応をとることを第一に勧めている。 では、非薬物的対応とは何をすればいいのか。標準的な方法はない。その障害者の行動パターンをよく見て、それに合わせて対応法を考えていく。 まずは、その障害者において、修正すべき問題行動が何であり、それをどのような行動に変えていくべきかを明らかにする。そして、環境要因をよく見て、問題行動を誘発し、持続させている原因を探る。 具体的には、ある生徒、ある人物のことが気に障って、怒っているのかもしれない。ある言葉で恐怖を感じて、パニックに陥っているのかもしれない。本人にとって想定外と思えることが発生して、どう対応していいかわからなくて、うろたえているのかもしれない。 本人なりの不穏に陥るパターンがあるはずである。それを見つけることが、対処方法の工夫につながる。 癇癪、興奮、パニックのほとんどは、本人なりの回避行動である。本人にとって、何らかの心理的負担がかかっているからであり、それを除去することができれば解消につながるはずである。
平時の生活習慣にも留意を
「こういうときどうしたらいいのか」 これこそ、私どもが最も親御さんから尋ねられる質問である。ただし、その前に、普段から備えることの方が大切である。 睡眠不足、不規則な睡眠パターン、過度の疲労、過度の不活発、偏食などは、すべて行動症状を増悪させる方に傾く。成人のアルコールなども、当然そうである。 逆に、十分な睡眠時間、安定した睡眠相(睡眠・覚醒のタイミング)、バランスの取れた食事は、すべて行動症状を軽減する方に向かわせる。アルコールは、行動症状があり得る人ならば、普段から控えておくべきであろう。 知的障害者は、健康管理能力が低いため、小学生高学年から肥満の割合が増加し、成人に至って生活習慣病に罹患する人が多いとされる。小児期から積極的に生活習慣に介入することは、成人期以降の健康維持のために有益である。しかし、それだけではない。行動症状の緩和にも一役買うのである。 とりわけ、運動である。知的障害者の興奮は、個人差はあれ、情動の不完全燃焼という側面がある。したがって、散歩、体操、フィットネス、ダンス、卓球など、何でもいいので身体を動かす機会を作ることである。とりわけ、散歩は、毎日の日課としたい。 それによって就寝時に抗重力筋に疲労を自覚する程度に、一定の負荷をかけたい。適度な疲労は、夜間の睡眠を改善することにくわえて、そもそも、それ自体に精神安定作用がある。 昼間から積極的に屋外で体を動かして、自宅、施設にもどったときに不穏になる体力もないような状態に持っていきたい。あとは、入浴して、夕食をとって、寝るだけとしたい。