本郷和人『光る君へ』花山院に矢を放った伊周・隆家兄弟は「左遷」。道隆一族の力が失われるきっかけに…左遷先で彼らはどんな扱いを受けたか
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第19話は「放たれた矢」。藤原道長(柄本佑さん)が右大臣に任命され、公卿の頂点に。これを境に、先を越された藤原伊周(三浦翔平さん)との軋轢が高まり――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「左遷」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは? * * * * * * * ◆長徳の変 ドラマ内にて、叔父である道長と権力争いを続けてきた伊周ですが、弟・隆家がこともあろうに、花山院に向けて矢を放ってしまいました。 いわゆる長徳の変です。 退位した身とは言え、元天皇へ向けて矢を射掛けた、という前代未聞の事件。 それが明るみに出たことで、隆家はもちろん、伊周らはその責任をとって都から左遷。中宮定子らも含めて、道隆一族が朝廷内で力を失うきっかけになっていきます。
◆形式上は「左遷」だけれど ここから歴史のお勉強となりますが、律令国家は罪人に対し、「笞・杖・徒・流・死」(ち・じょう・ず・る・し)の五種類の刑罰を用意していました。 順に、笞で打つ、杖で打つ、強制労働、配流、死刑です。 ということは、流罪は死刑に次いで重い刑罰になります。 たとえば源頼朝は伊豆国への流罪に処せられていますよね。頼朝は貴族としての身分が低かったので、単に流罪、なのですが、身分が高い人の場合はちょっと様子が異なります。 地方のイレギュラーな官職に任じる、すなわち形式上は「左遷」なのですが、内実は配流である、というかたちにすることがしばしばあるのです。
◆かなりきつかったはず 現在ならば、日本国中のどこの役所も刑務所も、しっかりと運営されています。罪人といえど、健康的な毎日が約束されています。 でも古代は、そんなわけにはいきません。イメージでいうと、かつてのソ連が行ったシベリア送り、みたいなものでしょうか。 罪人をキチンと管理するシステムなんて期待できませんから、地方の役人にいじめられても文句は言えず、かなりきつい毎日を強いられることが容易に想像できます。
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