「株高でも景気は最悪」「GDPは2位→38位に急落」残酷な事実を直視できない衰退国家ニッポンの末路
■呑気に働き方改革をしている場合ではない 現実を直視し、客観的に問題を把握できたら、日本全体がもっと危機感を共有し、貧困や格差を打破するために必死に働こうという空気が生まれるはずです。しかし必死になって働くどころか、真逆の方向に向かっているのが、私には不思議で仕方がありません。政府や企業は「働き方改革」「ワークライフバランス」を推進していますが、貧困に苦しむ人が増えているさなかにそんな余裕があるのだろうか、と。 現状を打破するうえで、参考になる国がギリシャの取り組みです。ギリシャは2009年に財政危機で破綻(はたん)しました。経済立て直しのまっただなかのギリシャで、今年の7月1日に新たな法律が施行されました。これまでの週休2日制から、業種によっては週6日の労働が許可されたのです。どん底を経験したギリシャは、経済を立て直すには必死に働くしかないという当然の結論にいたりました。 まだ日本には経済復活のチャンスはあります。日本人は、創意工夫で新たなビジネスを生み出す能力を持っています。日本人のクリエイティブな能力を証明するのが、飲食業界です。 東京は、ミシュランの星を獲得したレストランの数が世界一の街です。とくに個人経営の飲食店が、創意工夫を重ね、切磋琢磨(せっさたくま)した賜(たまもの)です。景気のよさを実感できる社会を取り戻すための解決策はシンプルで、ミシュランの星を獲得した飲食店のように、工夫し、努力を重ねて、必死で働くしかないのです。メディアが報じる情報を鵜呑(うの)みにして「今は景気がいい」と楽観視するようでは、日本経済はいつまでも再生できません。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 岸 博幸(きし・ひろゆき) 経済評論家・慶応大学大学院教授 1962年、東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。同省在籍時にコロンビア大学経営大学院に留学し、MBA取得。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、2001年、小泉純一郎内閣の経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官を務める。経産省退官後、テレビや講演など多方面で活躍。2023年1月に多発性骨髄腫の告知を受ける。著書に『余命10年多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』(幻冬舎)などがある。 ----------
経済評論家・慶応大学大学院教授 岸 博幸 構成=山川 徹 図版作成=大橋昭一