問題相次ぐ「学校健診」 校医に求めるのは「いやな検査があったら『やめてほしい』と言っていい」許可【学校健診問題を考える(上)教師の見方】
問題の表面化の理由は「インフォームドコンセント」の考え方の浸透
今回問題となったような健診の仕方は、今までも行われていたはずだ。実際、毎日新聞の報道によると、みなかみ町の校医は、全員ではなかったかもしれないが昨年も同様に診察したと記憶している旨話している。なぜ今、学校健診の問題が大きく取り上げられるようになったのか。 山田さんは、医師や看護師に十分な説明をしてもらい、納得のうえで医療行為を受ける「インフォームドコンセント」の考え方が普及してきたことが大きいと見解を示した。 「医師は、社会的信用が高く、その診療行為は聖域であり、『お任せする』のが当然のこと。疑問をもつことさえ許されない雰囲気が、日本の社会には長くありました」 山田さんはそう背景を説明した。インフォームドコンセントの考え方は30年ほど前から徐々に普及してきたといい、どの治療を選ぶのかといった診療の主体が患者にあるとする考え方が「当たり前」になってきた。 こうした考え方の変化が学校健診の場においても普及し、「『お医者さんのしていることだから、間違いない』という従来の考え方が払拭され、『不適切なのでは?』と疑問の声をあげやすくなった社会の状況が、その背景にあると考えられます」と山田さんはいう。 一方で、「コロナ禍を経験し、医療行為を含めた人との接触に関して、人々が敏感になっているということも言えるのではないでしょうか」とも述べる。 「日本の社会において、『当たり前』と考えられてきた人との距離や接し方が、見直されてきていると言えるでしょう」
学校健診は「すべての児童生徒を医療機関へとつなぐという意味」で重要
学校健診時の問題の頻出を受け、SNSでは学校健診は不要だ、やめるべきと言った声も上がっている。 山田さんは「確かに、短時間で多くの児童生徒の健診を行うことは、その精度が十分理想的なものだとは言えないでしょう」としつつも、次のように、学校健診の必要性を説明する。 「学校における健康診断で重大な疾患が見つかる例もあること、またこれだけ多くの児童生徒に漏れなく健診をし、疾病を早期に治療する機会を得る方法が、現状では他にないと言えます」 さらに、家庭状況や保護者の健康に対する考え方は、児童生徒ごとに異なる。つまり、「この程度でも、病院に受診させる」という家庭と、「どうして、こんなにひどくなるまで受診させなかったのだ」という家庭とが混在するのだ。 「そうした家庭状況に関係なく、すべての児童生徒を医療機関へとつなぐという意味において、学校における健康診断は、今なお重要な機会であることは間違いがありません」 またもう1点、虐待を受けている児童生徒の早期発見のためにも、学校健診は必要だという。 「外傷を見つける、虐待に起因する成長不全を見逃さない重要な機会として、学校における健康診断が機能していることを忘れてはならないと思います」