焼きそばのルーツを追えば、からみつく麺のごとく、芋づる式に日本の歴史が見えてくる『ソース焼きそばの謎』【サンキュータツオが読む】
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『ソース焼きそばの謎』(塩崎省吾 著/ハヤカワ新書)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。 * * * * * * * ◆そんなことを知ってどうなる、などと言うなかれ 「焼きそば」と聞いてイメージする、あのソース焼きそば。といいつつも、実は出身地や年齢で微妙にイメージがちがうあの焼きそば。そのルーツはどこにあるのか。 広く世に伝えられる、戦後に生まれた食べ物というのは俗説にすぎなかった。本書冒頭では、昭和11年の『素人でも必ず失敗しない露天商売開業案内』という本を紹介し、そこにすでに焼きそばという食べ物が存在し、さらにはソースをかけてかき混ぜるという記述まで確認する。 では、焼きそば用の「そば」の原料である小麦粉はどこで調達したのか、ソースはどこから来たのか。さらには戦後誕生説という俗説はどのように広まったのか。本書はそうした「焼きそばの謎」に迫る。さながら論文のごとく参考文献、引用文献に忠実であり、その信憑性も含めて検討。雑誌から書籍、店での伝承なども裏を取り、正確を期して事実を積み重ねていく。 そんなことを知ってどうなるのだと思う方もいるかもしれないが、「焼きそば」を日本全国食べ歩いた第一人者というべき著者が、そのルーツに迫っていく過程で、近接する食べ物であるお好み焼き、天ぷら、という食文化の歴史にも接続し、さらには露店文化や東武鉄道といった交通史にも分け入っていくことになる。からみつく麺のごとく、芋づる式に日本の歴史が見えてくるのだ。こんなに興奮する読書体験はなかなかない。 新書といえど、貴重な写真資料や図表があるばかりか、重要な資料や焼きそばの現物に関してカラー写真なのはやはりうれしい。地方色豊かなのもルーツを知れば納得、そしてなにより読みながら焼きそばが食べたくなる! 歴史を検証していく過程の面白さも、切り口あってこそ。足で稼ぎ、愚直に資料と向き合う著者の姿勢には、胸を打つ変態性(褒め言葉)すら感じる。
サンキュータツオ
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