ユアネス、新たな息吹を奏でる定期公演〈Breathing〉開幕 「リラックスできる場であってほしい」
ユアネスが、新たなチャレンジとして初の定期公演〈Breathing〉を2024年10月から偶数月に東京・渋谷PLEASURE PLEASUREにて開催。その記念すべき第1回目公演が10月16日に開催されました。 ユアネスは、2024年は2ndミニ・アルバム『VII』のリリース、初の東京・Zepp Divercity(TOKYO)や台湾での単独公演といったバンド活動はもちろん、黒川侑司(Vo)がGalileo Galileiと初共作をした「夏の桜」のリリースや、女性Vtuberヴォーカル・ユニットの楽曲を古閑翔平(Gt)が書き下ろし&プロデュースし、同曲をバンドで演奏するなど、新たな可能性を切り開き続けている4ピース・バンド。 “呼吸をする”や“生きている”という意味を持つライヴ・タイトルには、バンドもメンバーもお客さんも、「この日集まった全員」が同じ場所で呼吸をする、呼吸を整える場所になってほしいという願いや、定期的にイベントを開催することが呼吸のようであること、呼吸のように生きていくうえで大切なものという意味も込められており、『VII』で掲げた“命”や“人生”といったテーマと通ずることがうかがえます。その心意気を体現する生演奏は、彼らの音楽家としての純粋な熱意が混じりけなく届く、非常に清らかなものでした。 現時点では〈Breathing #2〉までのキー・ヴィジュアルが公開されており、#1から#2で物語が進んでいることが見て取れます。未来に向けて様々な観点から伏線を散りばめるところも、彼ららしい遊び心。「Breathing」を経るごとに謎が明らかになると同時に、彼らも表現の精度を上げていくでしょう。これまで積み重ねてきた歴史と今湧き起こる好奇心で、新たなプロローグを迎えたユアネス。彼らの描く物語の続きをこの先も楽しみに待ちたいところです。 [ライヴ・レポート] 最新作『VII』のイントロダクションとなるインスト曲「Gemini」をSEに群青色の光に包まれたステージにメンバーが登場すると、アルバムをなぞるように「isekai」へとなだれ込む。ステージには5枚の白幕がアーチを描くように設置され、そこに照明が反射するとステージ全体が曲と連動して様々な色に変化するような演出が施されていた。キメやブレイクが効果的な同曲は田中雄大(Ba)と小野貴寛(Ds)の織り成すリズムワークが華やかに響き、冒頭からバンドとしてのたくましさを堂々と提示する。その後も「アミュレット」「躍動」と優雅でありながらも精悍な、爽快感と切迫感を併せ持つ歌と演奏で会場の熱を上げると、客席もクラップで湧き上がる高揚を伝えた。 黒川はこの定期公演で初期曲から新曲まで幅広く披露したいと告げ、「みんなのお気に入りの曲が聴けるといいですね。心からそう思う。僕もやりたい曲がいっぱいあります」と意気込みをあらわにする。「凩」は初期曲ならではの身体に馴染んだしなやかなグルーヴで魅せ、その後は黒川がギターを置いてピンボーカルスタイルになり、導入セクションでのソロ回しを交えたメンバー紹介を経て「ECG」へ。黒川は軽快でエッジの効いた演奏を全身で愉しみながら艶やかなメロディを歌い上げ、「Present Day」(常闇トワ[ホロライブ]提供楽曲)のセルフカバーでは白幕に投影された映像が楽曲に宿る衝動性を研ぎ澄ましていた。ここまでの展開は、要所要所で今年2月のZepp DiverCityワンマンで見せたシーンを彷彿とさせる。だが過去の轍を愛でながらも、その枠に収まらないのがユアネスだ。さらに磨き上げて再構築するところに、彼らのハングリー精神や曲の持つポテンシャルを全身全霊で引き出すという美学が垣間見えた。 黒川がこの定期公演について「もちろん毎回来てくれたらうれしいけど、無理して通う必要はないので。来たいときにリラックスして来てほしいし、リラックスできる場であってほしい」と言うと、初作品から「Bathroom」を披露する。浮遊感と没入感を持ち合わせた音が降りしきる雨のように会場を包み込んだ。 YOURNESSの音楽は物語が音楽に昇華されたと語られることが多いが、それは主人公の感情にフォーカスしたもの、心象風景を描いたものとも言い換えられるのではないだろうか。「ヘリオトロープ」「日照雨」「紫苑」と主人公の心から湧き上がった感情を細部まで丁寧に描いた音、歌、歌詞、メロディをコンサートホールならではの豊かな響きを通して全身で浴びるなかで、自分の心の奥に押し込めてしまった感情に光が差し込むような感覚があった。日々の暮らしに追われていると、自分に湧き上がった悲しみや切なさ、大切な人への感謝や愛情をなおざりにしてしまいがちだ。それらと真摯に向き合ったYOURNESSの音楽と演奏は、生きること、呼吸をすることは自分の感情をじっくりと見つめることであると教えてくれるようだった。 久しぶりにワンマンのステージに立ったことに対して「(自分たちのライブにこれだけ)観に来てくれる人がいるのは普通のことではないから、すごくうれしい」と笑顔を見せた黒川は、「(来てくれたからには)期待に絶対応えたい」「この定期公演をしっかりとYOURNESSのステップアップにしていきたい」と真剣な表情で語る。その強い意志は彼だけでなくバンドの総意だろう。国内外から注目と支持を集めた「『私の最後の日』」では、曲を最上の状態で届けようとする矜持、途轍もない愛情で曲に没頭する集中力が美しく花開いていた。その熱量を保ったまま「籠の中の鳥」を届けると、本編ラストは「命の容量」。新しい物語を切り開くような、勇敢な音が会場を明るく照らした。 アンコールではまず田中と小野がステージに現れ、「今日のセットリストは1曲1曲がハイカロリーすぎて体力を使い果たしてしまった」と笑う。「Breathing」は彼らの並々ならぬ気合いがあってこそ成立するのだ。古閑は「この先どんなセットリストになっていくのかを楽しみにしてほしい」、黒川は「なるべくみんなの前に顔を出したいし、生演奏で曲を聴いてほしい」とそれぞれライブに懸ける思いを語ると、観客も拍手でそれを受け止めた。 「伝えたかったこと」を軽やかに届けた後は、「新曲を持ってきました!」と告げ「天泣(読み:てんきゅう)」を初披露する。古閑がSNSで「毎回新曲やりたい」、黒川が本編のMCで「Breathingには息吹という意味もあるらしいので、新しい曲の息吹があるかもしれないですね」とほのめかしており、観客もそんな彼らへの親しみを込めてか、新曲でありながらもクラップで楽曲に参加し、会場はさらに華やいだ。黒川が「拳を貸してくれ!」と呼びかけ「pop」を歌い出すと、客席には次々と高く拳が突きあがる。隅々まで通ったフレッシュなムードは、まさにハッピーエンドそのものだった。 文: 沖さやこ 写真: 佐藤広理