「はっきり言って冗談じゃない」義父母の介護を3年超→情熱が一気に冷めた「義父の行動」とは
夫は「運び込まれたときは本当に具合が悪かったんだろ。許してやってくれ」と言う。「あんたにボロカス言われる親父が可哀想になるなあ」とも言う。 でも、一番可哀想なのは私と看護師さんではないだろうか。私も看護師さんも、万が一感染しても仕方がないという悲壮な思いで、脱力して意識不明らしき老人を担いで車まで必死になって運んだのだ。 それなのに、一瞬目を離した隙に、軽やかな足取りで車を降りて自宅に戻り、トイレに向かっていた義父。その後ろ姿は元気そのもので、つい1分ぐらい前に息も絶え絶えの白目状態で全身の力を抜き、だらんとした両足を引きずられるようにして車に乗せられた老人と同一人物とは思えなかった。 看護師さんはきゃーっ!と叫んだ後に「歩けてるやん!」と大声で言っていたが、私は内心、「またやられた……」と思っていた。 ● つねに優しい言葉を 欲する義父にヘキエキ ここ数年ですっかり涙脆くなった義父は、義母との暮らしの苦労を語るとき、人目も憚らず泣くようになっていた。相手が誰であろうと、あっさり泣いてしまう。そりゃあ、お年寄りですもの、大変ですもの、泣くときもありますよ……と思う方もいるだろう。それは私も理解しているつもりだ。
義父が泣くことが問題ではないのだ。問題は、泣いた直後に(それも3秒後ぐらいに)、なにごともなかったかのように普通の状態に戻っているところなのだ。普通というか、むしろ明るい。 「つらいですねえ」「大変ですねえ」と優しく声をかけてもらうなど周囲にいる人間の注目を十二分に集めたことを確認すると、義父はすっかり元気になる。両目はキラキラ輝く。完全復活を遂げ、上機嫌になる。迷惑な不死鳥だ……私の目にはそう見えた。それとも私が意地悪過ぎるだろうか。 こういう経緯もあって、私はここのところずっと疑っていたのだ。涙声の電話で「もうどうしていいかわからんのや……たすけて……」とダイイングメッセージのようなことを言われても「OKでーす!」と上手にかわしていた。だって、本当は元気なんだもの。 以前は、驚いて車をぶっ飛ばして夫の実家に駆けつけたものだったが、私の心配をよそに、義父は決まって上機嫌に庭を掃除していた。満面の笑みだ。拍子抜けというか、腹立たしい。こんなゲームをするために私を呼びつけてくれるなという怒りが募ったものだった。