錦織の全仏ベスト16の本当の意義
〈クレーの王様〉ラファエル・ナダルに対する錦織圭の5度目の挑戦は、またも弾き返された。全仏オープン4回戦。リスクのある攻撃が功を奏した立ち上がりは「もしや」との期待をさせたが、終わってみれば約2時間のストレートセットでの完敗。錦織はショックを隠せなかった。 「粉砕されてしまった感じは大きいですね。クレーのナダルはやっぱり一番強いと感じました」 どうしても錦織贔屓になる私たちの心情を無視して冷静に見れば、これは間違いなく〈順当〉な結果だ。では、錦織のベスト16という結果はどう評価すればいいだろうか。第13シードだからベスト16まで進むのはこれまた順当な成績。勝った相手は格下ばかりだ。 日本のメディアは「日本人として75年ぶりの全仏4回戦進出」との見出しで騒いだが、今さら錦織圭というテニスプレーヤーを、日本のテニスの歴史と照らし合わせて評価する必要性はないだろう。特に、幼くしてアメリカに渡ってアメリカで育てられた錦織が、自分の両親さえ生まれていない時代の日本の先輩プレーヤーを意識しているとも考えにくい。錦織が常に超えようとしているのは、過去の自分自身であり、いま同じ時代を生きる偉大なプレーヤーたちであるに違いない。 今回の錦織を評価するなら、75年ぶり云々ではなく、錦織自身が過去2回戦を突破したことのなかった全仏で4回戦に進出したという点だろう。しかも、天候不順や完全アウェーなど、難しい状況も克服してのベスト16だった。 振り返ると、錦織にとって全仏は相性のいい大会ではなかった。球足の遅いクレーではなかなかショットが決まらず、1ポイントを取るのが他のサーフェスより大変なのだが、そんなクレーに自信がないという。プロになりたての頃はクレーが好きだと言っていたはずだが、いつの頃からか、クレーシーズンになると「苦手」「難しい」「自信がない」といったネガティブな言葉が出てくるようになった。 「ジュニアの頃は(クレーでは)いろんなことができて楽しいと思ってたんですけど、プロになってクレーの過酷さに気付いてしまったので。やっぱりフィジカルが一番大切だし、その中でもテクニックやしぶとさが必要になってくるし」 また、錦織はこの時期に体調を万全に整えられないケースが多かったのだ。試合時間が長く、肉体的に苛酷なクレーでは体を痛めやすい。具体的に見ていくと、全仏デビューを果たすはずだった09年は肘の故障で欠場、この戦列離脱は結局丸1年に及び、2010年は復帰間もない時期の挑戦となり、翌年は大会前に腎臓結石を患って不安を抱えながら臨んだ。そして昨年は、やはりクレーシーズンの途中で腹筋を痛めて肝心の全仏を欠場した。