幼児の歯磨き、大変なのは…子育て〝理想と現実〟に驚き 口腔ケア「食器の共有NG」より重要なむし歯予防
大変なのは歯磨き自体じゃなく…
むし歯を防ぐには、歯磨きが欠かせません。しかし、それには子ども側の協力も必要です。親子で仲良く歯磨き――できればいいのですが、物心ついて以降、周囲に小さい子どもがいない環境だった私にとって、我が子の歯磨きのトレーニングは衝撃的でした。 母子手帳の副読本には「機嫌のよい時を見計らって」「保護者が楽しそうに歯磨きするところを見せてあげて」などと記載されていますが、無理なときは何をやっても無理。 ひと通り夫婦で楽しく歯磨きをするお芝居をして、「じゃあ歯磨きしよっか」と呼びかけても、ついに覚えてしまった首を横に振るジェスチャー“イヤイヤ”が発動する徒労感と言ったら……。 逃げ回るため、お話ししてもダメなら、ある程度は手足をホールドしないと、歯磨きはできません。泣き叫ぶ我が子を前に、「いや、キミのためなんだけど」と子育ての理想と現実に打ちひしがれることもしばしばです。 一方で、かわいいところもあります。保育園で読んだ『はみがきれっしゃしゅっぱつしんこう!』が大好きなうちの子は、どんなに泣き叫んでいても、「出発進行!」と呼びかけると「あー!」と笑って口を開けるため、歯磨き自体は可能になるのです。 母子衛生研究会は幼児の歯磨きについて、「1本ずつやさしく磨く」「1本5秒くらいで十分」としています。そのため、それ自体はそこまで時間がかかりません。 また、母子手帳の副読本では「生え始めの歯の表面に直接フッ化物を塗布することでむし歯になりにくい強い歯になります」ともされ、“フッ素(入りのジェル)”を塗り塗りして数分で終了。我が家では歯磨きはむしろ、するまでが一苦労のイベントです。
“食器共有NG”よりも大事なこと
むし歯を防ぐ目的で、歯磨き以外のことをしている家庭もあるかもしれません。例えば「親と子どものスプーンやコップなどの食器の共有を避けること」。親から子どもへのむし歯の原因菌の感染を予防するためとして、広まっている情報です。 しかし、これは近年、科学的根拠が強くないことが、日本口腔衛生学会などから繰り返し発信されています。しかし、どこかで聞いたことのある、まことしやかな情報というのは頭から離れないもので、私も例えば自分が口に入れたスプーンを我が子に使わせるのは“なんとなく”避けてしまいます(気分的なものもありますが)。 それ自体はきっと、個人の自由の範囲なのでしょうが、そのせいで正しいむし歯予防ができなくなるのは良くないことです。 そもそも、なぜ「食器の共有を避けること」が推奨されていないかというと、一つは「親からの口腔細菌の感染は食器の共有の前から起こっている」から。離乳食開始(およそ5~6カ月)以前から、親子のスキンシップを通して子どもは親の唾液に接触するためです。 「赤ちゃんを覗き込んで『かわいい』と言い、赤ちゃんがキャッキャと笑う」という、よくある微笑ましい場面。そんなときでも唾液は飛び、感染リスクはあるのです。 「食器の共有に気をつけていても、子どものむし歯に差はなかった」という国内の研究(※)もあり、科学的には食器にばかり神経質になる必要はなさそうです。 ※Association between caregiver behaviours to prevent vertical transmission and dental caries in their 3-year-old children. Caries Res 2011, 45(3):281-286. むしろ困るのは、ただでさえ大変な子どもの口腔ケアにおいて、「食器を共有しない」という不必要かもしれない対策に意識を奪われ、本当に大事な対策がおろそかになること。 同学会は「親から子どもに口腔細菌が伝播したとしても、砂糖の摂取を控え、親が毎日仕上げみがきを行って歯垢を除去し、またフッ化物を利用することでう蝕(むし歯)を予防することができます」としており、やはり歯磨きなど日々のルーティンが大切、ということになりそうです。 また、しっかり日々のブラッシングをしているつもりでも、冒頭の歯医者では「磨きづらい部分に歯石が付いている」との指摘が。1歳や1歳半の歯科健診、定期的な歯医者への通院などで、専門の歯科医師のチェックを受けることも重要だとわかりました。