急速に回復するライブエンタメ市場の課題と未来 持続的成長に不可欠なビジネスモデル変革
ぴあ総研が2023年12月に公表した「2023 ライブ・エンタテインメント白書」。国内のライブ・エンタテインメント市場(以下、ライブエンタメ市場)の市場規模と最新の将来予測をまとめた内容で、コロナ禍前の約9割まで回復したという明るい兆しがある一方、日本社会全体が抱える問題がライブエンタメ業界にも大きな影を落としていることを指摘。今後、市場が持続的に発展していくためには、問題意識を持って変革に取り組むべき重要な時期を迎えていることを呼びかける内容となっている。 【グラフ】コロナ禍前よりも総じて上昇したチケット価格 ポップスが顕著
■復活の兆しを見せるライブエンタメ市場 楽観視できないその内情
2019年に6295億円の市場規模を記録したライブエンタメ産業。ところが新型コロナウイルス感染症の拡大により、20年~22年には入場料収入だけで累積損失1兆円超という大打撃を受けるも、そこから22年には市場規模を5652億円(19年比:89.8%)にまで回復。特に音楽ライブの動員数は、収容人数制限が解除された22年に前年比137.1%増の4589万人(19年比:83.4%)となるなど、数字的にも順調に復活の兆しを見せている。 ところが公演数に目を向けると37,954回(19年比:62.1%)と緩やかな増加に止まっており、もろ手を挙げて「ライブが戻ってきた」と喜べない状況にあることがわかる。市場規模は回復しながらも、公演数はさほど増えていないというデータは、いったい何を意味しているのか。 コロナ禍前の16年は、東京オリンピックに向けて、首都圏の劇場やコンサートホールが改修工事などで閉鎖することから、ライブ会場不足が叫ばれた。その後、有明アリーナをはじめ民間運営の東京ガーデンシアター、ぴあアリーナMM、Kアリーナ横浜などの大規模会場が続々と開業。これらの会場がコロナ禍で抑制されたライブ供給の反動増の受け皿となり、22年以降、大都市部でのドームやスタジアム、アリーナといった大規模公演が増加している。そこにチケット価格の上昇も加わり、市場規模こそ大きく回復したが、1,000人未満会場の公演数はいまだ19年の50%に届いておらず、地方公演は減少。同白書は決して楽観できるものではない内情を示している。 「語弊のある言い方かもしれませんが、集客力や資金力のあるアーティストが市場全体の回復傾向をけん引しているというのが現在の姿なのだと思います。そのため、私としては市場が元の状況に戻ったとは考えていませんし、そもそも、元に戻ることが正しいのかもわかりません。なぜなら今後、市場を取り巻く環境が大きく変化することは目に見えているからです。むしろ業界自体でビジネスモデルを抜本的に見直していかなければならない時期に差しかかっていると思っています」(ぴあ総合研究所取締役所長・笹井裕子氏) ここで笹井氏が語る「市場を取り巻く環境の変化」とは、日本社会全体が直面している人口減少・少子高齢化である。特に若年層の減少は、ライブエンタメ業界においては観客動員基盤の縮小を意味するだけでなく、現実問題として、業界での働き手不足へとつながっていく。