「夫を殺されたという女性があまりに多い」難民キャンプの窮状 ミャンマー国軍の次はアラカン軍が… ロヒンギャを撮り続ける新畑克也氏 世界に黙殺される悲劇【大規模迫害から7年】
難民キャンプには国際NGOが整備した井戸も数多く見られた。あまりに急速に井戸が掘られ、受け入れコミュニティの井戸が枯れてしまったり、ヒ素汚染に悩まされるという事象も起きた。安全な水がないと私たちは生きていけない。
難民キャンプの商店が立ち並ぶエリアで若い母親に物乞いをされた。ロヒンギャの社会で物乞いは恥ずかしいこととされ、ミャンマーの集落でも子どもたちがふざけて「お金ちょうだい」と言ってきたのを見た大人が厳しくしかりつけていたし、保守的なイスラム教徒である彼らにとって若い女性が見ず知らずの外国人男性に声を掛けて物乞いをする行為自体が普通ではなく、彼らが故郷で壮絶な体験をしこの難民キャンプで困窮している状況を理解して苦しくなった。幼子の虚ろな表情が頭から離れない。 食糧、医療、教育など様々な人道支援が不足する中、難民の多くは母国への安全で尊厳のある自発的な帰還を求め続けているが、彼らの切実な願いが実現する兆しはない。2021年2月にミャンマーで起きた軍事クーデターによる情勢悪化、2018年末からラカイン州やチン州の一部でラカイン族の武装組織アラカン軍(AA)と国軍の衝突が激化している。
シェルターにお邪魔して取材をさせてもらっていると、組まれた竹の向こうから女性たちが訝しげな表情でこちらの様子をうかがっていた。女性たちは基本的にシェルターに閉じこもり、あまり外に出ることはないという。私はミャンマーや日本にロヒンギャの友人がいて、日本から会いに来たことを伝えると、「敵ではない」と心を許してくれたのか、少し穏やかな表情になってお茶を出してくれたり、故郷やキャンプでの話を聞かせてくれた。
マウンドーから逃れて来た男性と子どもたち。国軍兵士に右足を切り裂かれ、命は助かったがまともに歩くこともできなくなってしまった。故郷の村も焼かれてしまったと。その様子を想像しただけで胸が詰まった。 2024年5月頃から占領を進めるアラカン軍による、ロヒンギャが多く暮らすラカイン州北部ブティダウン、7月頃からはマウンドーで市街地へのドローン攻撃による殺人、住民の追放や放火、略奪などの行為を地元住民やロヒンギャの活動家、複数の国際人権NGOが指摘しており、劣勢に立つとされる国軍側も国籍すら剥奪しているロヒンギャ住民を徴兵し「人間の盾」に使用しているという。 再び多くの人々が命懸けで国境を隔てるナフ川を渡り逃避しなければならず、粗末なボートが転覆し溺死する人も後を絶たない。「大量虐殺の第2波」と言われるほど現在ロヒンギャが再び深刻な危機にさらされている。頼みの綱であるバングラデシュでは2024年7月以降の学生デモにより15年に及んだハシナ政権が崩壊し不安定な情勢が続く。
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