桜田ひより×風間太樹監督が語り合う映画『バジーノイズ』 物語が生まれる“日常”とは
日々感じる生活音をきっかけにしたかった
──清澄にとっては、潮が初めて自分の音楽を肯定してくれた存在でした。お二人も表現を仕事にしていく中で、初めて自分の表現を肯定してくれる人と出会ったときのことを覚えていますか。 桜田:いつの時期だったかは正確に覚えていないんですけど、初めてファンレターをもらったときはうれしかったです。自分がやっていたことが人に届いたうれしさもあれば、ちょっと照れ臭さもあって。いまだにファンレターをもらうとグッと来るものがあります。SNSを通じてのコメントもうれしいですけど、やっぱり自分のためにレターセットを買って、文字に想いを込めて届けてくれるのは特別といいますか。 風間:僕もレターセット、好きです。買うときにその人をイメージしながら選ぶじゃないですか。そこが素敵ですよね。 桜田:ワクワクしますよね。今でもふとしたときに読み返すんですけど、またこの人から届いてるとか、そういうのもうれしいです。 風間:ずっと書き続けてくれている人がいるんだ。 桜田:はい。本当にありがたいです。 風間:僕は大学生のときに初めて自分で映画を撮ったんですけど、地方の美大だったこともあって、出演者はみんな友人や先輩だったんですね。で、その人たちが出来上がった作品を観て「出られてよかった」と喜んでくれて。それが、僕自身が肯定してもらえたと初めて感じた瞬間でした。出演者は、一緒に作品をつくる共闘相手。その人たちと同じ想いで作品をつくれたことが僕にとっては非常に大切で。今もカメラを向ける相手とコミュニケーションをとることを大事にしているのは、そういう原体験があったからかもしれません。 ──潮は「しんどいときいつも清澄の音楽が聴こえてきたから頑張れた」と言います。音楽に限らず、お二人の日常の支えになっている音はなんですか。 桜田:私は、家に帰ってきたときに愛犬が走ってくる音です。それだけで1日のしんどいことが全部吹っ飛んで、「ただいまー!」ってなるんですよ。こんなに私が帰ってくることを喜んでくれて、がむしゃらになって走ってきてくれる存在いないですからね! あの音を聞くとやっぱりうれしいなって思います。ちょっと夜遅くなって、もうすでに愛犬が寝てるときは何も聞こえないので寂しくなります(笑)。 風間:僕は日常の音が好きで。中でもいちばん心がほぐれるのが、夕暮れの帰り道に知らない人の家から聞こえてくるキッチンの音。その人たちの生活とか暮らしみたいなものをちょっとお裾分けしてもらってる感覚があるというか。 桜田:わかります。 風間:原作で描かれた『バジーノイズ』の音をどう映像で表現するか。それが今回の課題だったんですけど、僕としては、生活音のような日常の音を手繰り寄せ、それを清澄という人のフィルターを通して音楽にしてもらったら素敵なものになるんじゃないかという思いがありました。カリスマ的な閃きから生まれるものではなく、日々の生活で感じている音に耳をすませ、それを創造のきっかけとするような物語の描き方がしたかった。そういう意味でも僕にとって日常の音はとても大切なものです。