ビザ・キャッシュアップRB、略して読むか? フルネームで読むか? 新名称の裏側にあるレッドブルの戦略
レッドブルの優れた戦略
レッドブルが打ち出したセカンドチームの名称は実に賢明だ。チームは長らく噂されてきた“レーシングブルズ”と名乗ることもできたはずだが、単なる“RB”としたことで、メディアではスポンサー名も入れて言及せざるを得ない、スポンサーとしては喜ばしい状況を作り出すことができたのだ。 このチームをアルファタウリと呼び続けることも、かつてのトロロッソ(あるいはミナルディ)と呼ぶことは正しくない。そしてレーシングブルズと呼ぶのは、F1チームではなくその背後にいる会社を指すこととなる。これはザウバーがステークF1(2023年までのアルファロメオ)の背後にいる会社であり、2015年にマルシャF1の後ろにマノーがいたのと同じだ。 ただRBと呼ぶのはあまりに薄っぺらで、なによりレッドブル・レーシングと混同してしまう危険性がある。という訳で、ビザ・キャッシュアップRBと呼ぶことが、事実を捻じ曲げること無く、混乱を招く可能性が最も低い呼び方だと思われる(そう呼ばざるを得ないのかもしれないが……)。 結局のところ、シーズンが開幕していない現段階から、今後どのような名称が広く定着するのかを考えるのは難しい。おそらく一般のファンに定着するのは、スポンサー名を全て含む名称を呼ぶことに対抗してレーシングブルズと呼ぶか、RBと呼ぶかのどちらかだ。中には頭文字を取って「VCARB(ヴィカーブと発音)」と呼ぶことを提唱する人々もいるが、これは実況解説者泣かせの選択だろう。 チームの最高経営責任者(CEO)を務めるピーター・バイエルが2023年末に「ジェネリック」なアイデンティティになると語った時、彼はこれを暗示していたのだ。
トロロッソ、アルファタウリ、そしてRB:白紙だからこそできるマーケティング戦略
そうすると、ビザ・キャッシュアップRBというチーム名称が何も意味を成さないことが見えてくる。名称からアイデンティティをここまで消すことができるのなら、このチームにとってアイデンティティの有無は問題ではないということだ。 実際、イタリア・ファエンツァに本拠地を置くこのチームは、レッドブルのセカンドチームになって以来、独自のアイデンティティを持ったことがない。トロロッソは単にレッドブルのイタリア語訳であり、アルファタウリも単なるレッドブルのアパレルブランドの名前だ。RBやレーシングブルズはレッドブルを連想させるモノにすぎない。 またトロロッソとアルファタウリの時代には、イタリア語で馬小屋やチームを指すスクーデリアが名称に入れられていた。今回の名称はイタリアへの関連性がないが、それがあったからといって、このチームにアイデンティティが生まれるという訳でもない。それはファクトリーのアイデンティティであり、チームそのものではない。 レッドブルは傘下の2チームで完璧な“駆け引き”を演じていると言える。まずレッドブル・レーシングはF1界のリーダー的存在であり、ブランドのアイデンティティを体現している。一方でセカンドチームは真っ白なキャンバスであり、そのままマーケティング活動に利用できるのだ。 もちろんその他のチームでは、メルセデスAMGペトロナスはメルセデス、アストンマーティン・アラムコはアストンマーティン、BWTアルピーヌはアルピーヌといった具合に、自分たちが何者であるかが明確に示されている。 シャシー製作でダラーラと提携を結び、フェラーリから最大限パーツを購入する、おそらく“コンストラクター”からは最もかけ離れたモデルケースであるハースでさえ、アイデンティティを捨てることはできない。 そしてプライベーターであるウイリアムズは、このリストの中で最も本質的なケースだろう。本家の手を離れた今、将来を予測することはできないとしても、その名前は依然として大きな歴史と意味を持っている。 では、ザウバーはどうだろうか? ペーター・ザウバーが起こしたコンストラクターとしてメルセデスと共に1989年のル・マンを制するなど成功を収め、独自のアイデンティティを築いた。 しかしメルセデスの尖兵としてF1に出場して以降、時にBMWに買収されたりアルファロメオにネーミングライツを売却したりと、ザウバーという名前が表に出てこない時期も長い。アルファロメオが2023年末で離れても、ザウバーは2024年と2025年にステークというスポンサー名でF1に参戦。2026年からはザウバーを買収するアウディのワークスチームとしてグリッドに並ぶこととなる。 このようにザウバーは、F1チームを運営しながらも“裏方”に徹するスタイルのコンストラクターだ。聖書にもある通り、太陽の下に新しいモノは何ひとつない。かつて起こったことは、これからも起こりうるのだ。ある意味、レーシングブルズもこのスタイルを踏襲していると言える。 F1への関心が高まり、スポンサー活動が活発化し、チームも最大限その波に乗ろうと動いている。誰もがF1での露出を利用したいと考えており、チームはパートナー企業をアピールする最良の方法を模索している。言及せざるを得ないタイトルスポンサー枠の誕生は、スポーツとしての成功の代償でもある。
Fabien Gaillard