アングル:韓国大統領と人気右派ユーチューバー、「シンクロ」は偶然か
Ju-min Park Tom Bateman [ソウル 16日 ロイター] - 韓国の尹錫悦大統領が「非常戒厳」の宣言を正当化する理由として、選挙へのハッキングと「反国家」的な北朝鮮シンパの存在を挙げた時、右派の人気ユーチューバー、コ・ソングク氏には聞き覚えがあった。 登録者110万人を抱えるユーチューブの「コ・ソングクTVチャンネル」でコ氏自身、同じ主張を何度も繰り返してきていた。 コ氏はロイターに「尹大統領がユーチューバーの声によく耳を傾ければ、国民が本当に何を考えているのか、大統領の支持者の国民感情がどうなのかを理解できるかもしれない。それが私の期待するところだ」と語った。 3日に戒厳令を宣言した尹氏は14日の国会で弾劾訴追案が可決され、職務停止となった。これにより、尹氏の所属する保守与党「国民の力」は分裂した。 国民の力の韓東勲代表はかつて尹氏の腹心だったが、その後は大統領の弾劾を主張するようになり、16日に辞任を表明。右派メディアが保守分裂を招いたと非難した。 コ氏の批判の的となっていた韓氏は「われわれが陰謀論者や過激なユーチューバーのような過激派に共感したり、彼らが商業目的で作り上げた恐怖に支配されたりすれば、保守主義に未来はない」と断じた。 保守派寄りの韓国紙、中央日報のコラムニストは13日、尹氏の「ユーチューブ中毒」が政権を台無しにしたと指摘。「ユーチューブ中毒になると、陰謀論が支配する妄想の世界に陥る。(中略)尹大統領はユーチューブを見過ぎた」と論じた。 ロイターは尹大統領の視聴習慣や、戒厳令を正当化する主張の出所について大統領府に質問したが、回答はなかった。 <外国が干渉と主張> コ氏はスタジオを兼ねる質素なオフィスで取材に応じ、尹氏が自身の番組を視聴しているかは知らないとした上で、大統領の考えを反映しているように思える代替プラットフォームをユーチューバーが提供しているのは喜ばしいことだと語った。 2022年の選挙で韓国史上最も僅差で大統領に選出された尹氏は、就任式に右派のユーチューバーやコメンテーターを招待し、韓国内政に中国共産党が浸透していると主張するユーチューバーを公務員研修機関のトップに起用した。 尹氏は12日の演説で、右派の論客が好む論点を多く用い、自身の政敵は北朝鮮の敵に味方する妨害主義的な「反国家勢力」だと非難。北朝鮮政府が韓国の選挙をハッキングした可能性があり、戒厳令は民主主義を守るための合法的な措置だったと主張した。 韓国では、北朝鮮寄りのレッテルを貼られることは大きなリスクを伴う。 11月には、韓国最大の労働組合連合、韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)の元幹部が、北朝鮮からの指示で抗議活動を扇動したとして懲役15年の判決を受けた。 4月の議会選挙で「国民の力」が大敗を喫した後、特に大きく浮上してきたもう一つのテーマが、中央選挙管理委員会(NEC)のセキュリティーを巡る疑念だ。NECは尹氏が今回、軍隊を投入した場所のひとつとなった。 NECは昨年、情報機関に「セキュリティー上の脆弱性」について相談したが、選挙システムが侵害された形跡はなかったと発表している。 韓国の中央大学校のシン・ジンウク教授(社会学)は、尹氏とトランプ次期米大統領の類似点を指摘。「従来の新聞やテレビがトランプ氏に批判的な姿勢を取ると、同氏はフェイクニュースだとかゴミだとか言って非難した。トランプ氏は従来型メディアに代わる正しいメディアとしてユーチューブのようなソーシャルメディアを挙げた」と語った。 <フェイクニュース> 韓国言論振興財団が23年に発表した報告書によると、韓国国民の約53%がユーチューブでニュースを得ていると答え、他国の平均30%を上回った。この割合は16年の24%から増加している。 朝鮮日報が18年に実施した調査では、右派集会の参加者の70%がユーチューブを主な情報源としていると回答した。 弾劾を支持した「国民の力」のキム・サンウク議員は、右派のユーチューバーらが尹氏の広報マシンと化したと語った。 コ氏は、尹氏と保守系ユーチューバーが特別な共生関係にあるという主張を否定し、同様の力学はリベラル側でも見られると反論した。 今回の戒厳令ではメディアの統制が求められ、尹氏を批判する著名な左派系ユーチューバーの事務所に軍が派遣された。このユーチューバーはロイターに対し、「隠れている」と語った。 尹氏が弾劾訴追に直面していた先週、コ氏は、尹氏の戒厳令は国を統治するための最終手段だとし、「愛国的な右派の戦士ら」に対し、街頭に出て支援せよと鼓舞。「尹大統領を弾劾しようとする親北朝鮮派と、われわれ右派の者たちとの全面戦争が始まった」と宣言した。 コ氏は14日、ソウルで行われた尹氏支持者ら数万人の集会に出席して韓国と米国の国旗を振り、握手や写真撮影を求めるファンに応じた。 ファンのイ・グァンヒョンさん(71)は「フェイクニュース」を激しく非難し、「コ博士は保守派の市民を目覚めさせ、正しい方向へと導く偉大な政治評論家だ」と語った。 ユン氏はトランプ次期米大統領と同じく選挙不正と闘っていると主張するイさん。自身が弾劾に反対しているのは、1月のトランプ氏の就任式に尹氏が出席できなくなるのも理由だとし、「尹氏の思想と精神は、完全にこの国を救う方向に向いていると信じている」と言い切った。